河野多恵子(読み)コウノタエコ

デジタル大辞泉 「河野多恵子」の意味・読み・例文・類語

こうの‐たえこ〔かうのタヱこ〕【河野多恵子】

[1926~2015]小説家大阪の生まれ。本姓市川。「かに」で芥川賞受賞。他に「一年の牧歌」「みいら採り猟奇譚」「後日の話」「半所有者」など。評論に「谷崎文学と肯定の欲望」がある。芸術院会員。平成14年(2002)文化功労者、平成26年(2014)文化勲章受章。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「河野多恵子」の意味・わかりやすい解説

河野多恵子
こうのたえこ
(1926―2015)

小説家。大阪市生まれ。大阪府女子専門学校(現、大阪府立大学)在学中は第二次世界大戦時の動員生活、戦後2年間の結核療養生活を経て、『文学者』に『余燼(よじん)』(1951)を発表。『幼児狩り』(1962)で認められ、翌1963年『蟹(かに)』により芥川(あくたがわ)賞受賞。偏執的な感性を特色とする観念的な作風で、人間性を被虐・加虐のゆがみを通してとらえる傾向が強い。女流文学賞を受賞した『最後の時』(1966)のほか、『不意の声』(1968)、『回転扉』(1970)、『雙夢(そうむ)』(1972)、『一年の牧歌』(1980)など、丹念に書き込まれた日常性の底に無気味な深淵(しんえん)が開かれてゆく。『みいら採り猟奇譚(きたん)』(1990)、『後日の話』(1999)、『秘事』(2000)では、夫婦の純愛を、練りこまれた文体で描いている。評論に『谷崎文学と肯定欲望』(1975)がある。2002年(平成14)文化功労者。

田中美代子・橋詰静子]

『『河野多恵子全集』全10巻(1994~1995・新潮社)』『『幼児狩り・蟹』(新潮文庫)』『『谷崎文学と肯定の欲望』(中公文庫)』『『不意の声』(講談社文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「河野多恵子」の意味・わかりやすい解説

河野多恵子
こうのたえこ

[生]1926.4.30. 大阪,大阪
[没]2015.1.29. 東京,千代田
作家本名は市川多恵子。大阪の乾物問屋に生まれ,大阪府女子専門学校を卒業。1950年丹羽文雄主宰の同人誌『文学者』に参加。1961年に『幼児狩り』で新潮社同人雑誌賞,1963年に『蟹』で芥川賞を受賞。谷崎潤一郎の衣鉢を継ぎ,精緻な描写に基づくリアリズムの文体で,嗜虐・被虐妄想,異常性愛などの倒錯した欲望や意識の暗部を浮き彫りにして高い評価を得た。1967年『最後の時』で女流文学賞,1969年『不意の声』で読売文学賞,1980年『一年の牧歌』で谷崎潤一郎賞,1991年『みいら採り猟奇譚』で野間文芸賞,2000年『後日の話』で毎日芸術賞などを受賞。1987年に大庭みな子とともに女性で初の芥川賞選考委員となり,読売文学賞や谷崎潤一郎賞の選考委員を務めた。1989年に日本芸術院会員。2014年に文化勲章を受章した。

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百科事典マイペディア 「河野多恵子」の意味・わかりやすい解説

河野多恵子【こうのたえこ】

小説家。大阪生れ。大阪府女専卒。作家を志し上京,丹羽文雄の同人誌《文学者》に参加した。《蟹》(1963年)で第49回芥川賞を受賞。1965年洋画家市川泰と結婚。《最後の時》(1966年)で女流文学賞,《不意の声》(1968年)で読売文学賞を受賞した。他に《回転扉》,評論《谷崎文学と肯定の欲望》がある。日本芸術院会員(1989年),文化功労者(2002年),文化勲章受章(2014年)。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「河野多恵子」の解説

河野多恵子 こうの-たえこ

1926-2015 昭和後期-平成時代の小説家。
大正15年4月30日生まれ。「文学者」同人となり,昭和38年「蟹」で芥川賞。特異な感覚で意識内の世界をえがき,44年「不意の声」で読売文学賞,55年「一年の牧歌」で谷崎潤一郎賞。平成元年芸術院会員。3年「みいら採り猟奇譚」で野間文芸賞。11年「後日の話」で伊藤整賞。14年「半所有者」で川端康成文学賞。同年文化功労者。評論に「谷崎文学と肯定の欲望」(昭和52年読売文学賞)などがある。26年文化勲章。平成27年1月29日死去。88歳。大阪府出身。大阪府女子専門学校(現・大阪女子大)卒。本名は市川多恵子。

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