アメリカの劇作家オニールの三部12場からなる戯曲。1924年初演。1850年ごろのニュー・イングランドの農場を舞台に、厳格なピューリタンである老父キャボットと反抗的な息子エベンとの土地相続をめぐる確執を縦糸に、エベンと若い継母アビーの禁断の愛を横糸に、物欲と愛に引き裂かれる人間像を悲劇的にうたい上げた意欲作である。初演当時、近親相姦(そうかん)、嬰児(えいじ)殺しといった内容のため、各地で批判や上演禁止騒ぎを起こし話題となったが、地方色豊かな方言の使用、ギリシア劇の骨格やフロイト心理学の援用、写実的でかつ象徴的な舞台設定など、劇作家オニールの才能が全面的に開花した傑作とされている。
[一ノ瀬和夫]
『『楡の木陰の欲望』(清野暢一郎訳・角川文庫/井上宗次訳・岩波文庫)』
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