横笛草子(読み)よこぶえぞうし

改訂新版 世界大百科事典 「横笛草子」の意味・わかりやすい解説

横笛草子 (よこぶえぞうし)

御伽草子。渋川版の一。建礼門院御所に使いとして参上した三条の斎藤滝口時頼は,容顔美麗横笛という女房を一目見て恋い焦がれ,和歌に託して思いのほどを告げる。たびたび文を取り交わし,契りを結ぶ仲となるが,2人の仲を裂こうとする父に従わず,滝口は勘当を告げられる。親への孝か,契りを違えるかに思い悩んだ末,出家を決意して横笛のもとを去る。それとは知らずにむなしく男を待ちわびていた横笛は,ある日,人のうわさに滝口の消息を聞き,一目会おうと嵯峨野の往生院を探し歩く。やっとの思いでたどり着いたが,女人禁制ゆえに会うこともままならず,もはやこの世での再会は果たせないことを悟り,川に身を投げて17歳の短い一生を終える。横笛の最期を聞き知った滝口は悲しみに暮れ,なきがらを荼毘(だび)に付し,いよいよ道心を起こして高野山に上り,仏道修行を重ねるという話である。時頼が乳人(めのと)を介して横笛に遣わした懸想文(けそうぶみ)は謎ことばの羅列で,御伽草子にしばしば見られる中世的な趣向である。藤原時頼が18歳で法輪寺で出家したことは,藤原経房の《吉記》養和元年(1181)11月20日条に見え,《平家物語》巻十にも〈横笛〉がある。《滝口縁起》(清凉寺蔵)は,冒頭に,洛北〈みぞろヶ池〉の大蛇を横笛の父とする異類婚姻譚などをすえ,古怪な味わいに富む。
滝口・横笛
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