知恵蔵 「欠陥マンション問題」の解説
欠陥マンション問題
問題となった建物は、大規模ショッピングセンターに隣接する4棟705戸の大型分譲マンションのうちの1棟で、設計・施工は三井住友建設。1次下請けの日立ハイテクノロジーズを介して、杭打ち工事を行ったのは2次下請けとなる旭化成建材。データの偽装を行ったのも同社の担当者である。同マンションは、杭を地盤の強固な支持層に達するまで多数打ち込み、これによって建物を支える構造である。傾きの発生した11階建ての西棟を支える52本の杭のうち6本が支持層に達しておらず、別の2本は支持層に達しているものの打ち込む深さが不足していた。更に、これらを含む10本の杭の施工データに偽装・改ざんが見つかった。
このマンションは、砂や泥の堆積した軟弱な地盤と、比較的固い地盤との境目に位置している。このため、設計段階のボーリング調査よりも支持層が深い部分が生じていた。以前同地に立っていた工場の建物では、一部に長い杭が使われていたが、元請けの三井住友建設は短い杭を使うよう指示していた。ただし、杭打ちに際しては、1本ごとに電流計の波形を記録して、その変化によって支持層に達したかどうかを確認することになっている。旭化成建材の説明によれば、記録用紙が足りなかったり、水にぬれたりして使用できなった、あるいはスイッチを入れ忘れてデータを取得できなかったなどで、他の杭のデータを転用し記録を捏造(ねつぞう)したという。このマンションでは、05年12月から06年3月という短期間に居住棟4棟で約500本、全体では約800本の杭打ち工事が実施された。このうち、3棟38本で支持層についてのデータ偽装が発覚、更に45本で杭の先端部分を支持層に固定するセメントの量についてもデータの改変があった。国土交通省は事態を重く見て、他の物件の調査を指示すると共に、旭化成建材への立ち入り検査を行った。その後の調べで、旭化成建材が過去10年間に行った杭打ち工事約3000件の1割でデータの改ざんが見つかり、同業他社でも偽装や改ざんがあることが分かった。
建造物の設計や施工上のミスや手抜きなどによって、後になって欠陥が明らかとなるケースは、これまでにも度々問題となってきている。その都度、建築需要の急増で施工が杜撰(ずさん)になったとか、逆に需要の低迷で無理な価格で受注したためなどと言われてきたが、結局は業界の構造そのものに起因するとの見方が多い。このマンションを例に挙げれば、実際に杭打ちを行ったのは2社の3次下請けの施工業者であり、旭化成建材の現場責任者も他社からの出向社員だった。設計通りで杭の長さが不足なら、長くすればよいだけだが、末端の下請け業者からそのような意見を元請けに述べられるような関係ではないという。建設業界では孫請け曽孫(ひまご)請けなど何段階もの重層的な下請けが横行し、たとえ品質確保や安全のためであっても、末端業者から工期を延ばすよう求めることなど認められない構造がまかり通っている。識者からはこうした禍根を断つことが肝要であるとの意見が以前から繰り返されているが、現状に改善は見られていないという。
(金谷俊秀 ライター/2015年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報