狂言の曲名。太郎冠者狂言。大蔵・和泉両流にある。茶くらべの遊戯に行く主人は,太郎冠者に命じ,伯父から茶と太刀と馬を借りさせる。伯父は快く貸してくれるが,その馬には人が後ろでせきばらいをすると暴れる癖があり,それを静めるには〈寂蓮童子六万菩薩,静まり給へ,止動方角〉と呪文を唱えよと教えてくれる。太郎冠者の帰りを待ちかねた主人は途中まで出迎え,労をねぎらうどころか,遅いといってさんざん小言をいい,即座に馬に乗る。腹を立てた太郎冠者は馬の後ろでせきばらいをして主人を落馬させ,伯父に教えられた呪文を唱えて馬を乗り静める。冠者が馬に乗り,主人が茶壺と太刀を持って付き従うことになったので,冠者は主人の口まねをして報復する。立腹した主人が冠者を突き落として馬に乗り,ふたたび冠者のせきばらいで主人は落馬,逃げる馬を主従が追い込む。登場するのは太郎冠者,主,伯父,馬の4人で,太郎冠者がシテ。中世の風俗と主従の屈曲した心理の動きに下剋上的気分の横溢した狂言。馬の役は縫いぐるみ姿で四つ這いになり,賢徳(けんとく)という面をつける。酒宴場面とか歌舞的要素がなく,せりふ劇としての構成がしっかりした名作。
執筆者:羽田 昶
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
狂言の曲名。太郎冠者(たろうかじゃ)狂言。当世大流行の茶競(ちゃくら)べに出席することになった主人は、太郎冠者(シテ)に命じて伯父のところから、極上の茶ばかりか、茶壺(ちゃつぼ)、太刀(たち)、道中に乗る馬までの、仕度いっさいを借りに行かせる。冠者がようようの思いで借りてくると、しびれを切らして途中まで出迎えた主人は、ねぎらいのことばもかけず、いきなり叱(しか)りつけ馬上の人となる。この馬(賢徳(けんとく)の面を使用)には、咳(せき)をすると暴れる癖(くせ)があり、冠者はそれを鎮める呪文(じゅもん)「静まりたまえ、止動方角」を教わっていた。冠者は咳払いをして主人を落馬させ、呪文で馬を鎮める。主人はしかたなく冠者を乗せ、冠者が出世したときのために人を使う稽古(けいこ)を許す。ところが、冠者は先ほど主人が叱ったとおりを再現。怒った主人は冠者を突き落とし馬に乗るが、冠者の咳でたちまち落馬、馬ははるかかなたを逃げて行く。
茶競べは、茶の優劣を競ったり、産地当てなどをする一種の遊技で、その後に料理が出て宴会となる一大社交場でもあった。精いっぱいの見栄を張りたい主人に振り回されつつ、随所に自己主張をする太郎冠者との葛藤(かっとう)が能舞台の特徴を縦横に使って繰り広げられる。
[油谷光雄]
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