歯周病(歯槽膿漏)(読み)ししゅうびょうしそうのうろう(英語表記)Periodontal Disease

家庭医学館 「歯周病(歯槽膿漏)」の解説

ししゅうびょうしそうのうろう【歯周病(歯槽膿漏) Periodontal Disease】

◎ほとんどの人にみられる病気
[どんな病気か]
◎歯がぐらつき、最後に抜ける
[症状]
[検査と診断]
[治療]

[どんな病気か]
 歯周病は、かつて歯槽膿漏といわれたもので、歯のまわりの、歯を支えている組織(歯周組織)がじわりじわりと壊されていく病気です。歯槽膿漏ということばは、歯ぐき(歯槽)から膿(うみ)が出る(膿漏)ことに由来しています。
 歯周病はむし歯とならぶ歯科の二大疾患で、35歳以上の日本人で歯周病のない健康な歯ぐきをもつ人は、100人に1人もいないといわれています。
 ほとんどの歯周病は激しい痛みがなく、はっきりした自覚症状がないまま静かに経過する慢性の病気です。
 歯周病は、はっきりした症状がないまま進行するため、歯がぐらぐらして、おかしいと気づいたときには、すでに手遅れの状態ということも少なくありません。このような場合、歯を支える歯周組織の大半が失われているのです。
 歯周病はゆっくり進行しますが、厳密にいうと、ほとんど症状を示さない時期(静止期)と、その後に続く激しい急性炎症と組織の破壊のみられる時期(活動期)がくり返しおこっているのです。急性炎症と組織破壊によって歯と歯肉(しにく)の間に亀裂(きれつ)ができますが、この亀裂を歯周ポケットといいます。
 歯周ポケットができると同時に、歯のまわりの結合組織歯槽骨(しそうこつ)も破壊されてしまいます。外から見ると、歯ぐきがやせて退縮し、歯の根が現われるようになり、やがて歯がぐらぐらして、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。このような症状を示す歯周病の原因は、歯肉付近の歯についた歯垢(しこう)(プラーク)の中の細菌です。
■成人性歯周炎(せいじんせいししゅうえん)
 歯周病のほとんどは成人性歯周炎と呼ばれるもので、青年期以降の人にみられ、成人の75%以上の人が、多少とも歯周炎にかかっているといわれています。残りの約1割が若年性歯周炎と急速進行性歯周炎と呼ばれるものです。
 成人性歯周炎は名前が示す通り、30歳以降に発病するものです。歯に非常に多くの歯垢がついていて、歯周組織は少しずつ破壊されていきます。歯垢の量が多ければそれだけ強い炎症が現われ、骨は水平方向にも垂直方向にも吸収されます。その原因となる菌はポルフィロモナス・ジンジバリスやスピロヘータなどです。
■若年性歯周炎(じゃくねんせいししゅうえん)
 若年性歯周炎は10~15歳の女性にみられ、第1大臼歯(だいきゅうし)と前歯(ぜんし)の歯周組織が破壊されます。歯肉は正常な形で、ピンク色をしていますが、歯槽骨が破壊され(骨吸収)、歯周ポケットが深くなっています。若年性歯周炎の場合、家族のなかに同じ症状を示す人がいることもあります。
 原因となる菌はアクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンスで、成人にみられる歯周病の病原菌とは別の菌です。若年性歯周炎は白血球(はっけっきゅう)の機能異常とも関係があるといわれています。
■急速進行性歯周炎(きゅうそくしんこうせいししゅうえん)
 急速進行性歯周炎では、非常に短い期間に歯周組織が破壊されるのが特徴です。思春期から35歳までの間に発生するといわれています。この歯周炎も白血球の異常と関係があるといわれています。
●進行のしかた
 歯周病は、正常な歯肉にまず歯肉炎(しにくえん)がおこることで始まり、これがさらに進行すると歯周炎(ししゅうえん)になります。
 歯周病の発症と進行の過程は、開始期病変、早期病変、確立期病変、発展期病変に分類されます。
①開始期病変
 歯みがきをやめ、歯垢がつきはじめて2~4日後におこる歯肉の表面の急性の炎症をいいます。
②早期病変
 歯垢がついてから1週間後にみられ、明らかな歯肉炎を意味します。
③確立期病変
 歯周ポケットが形成され、炎症がさらに広がって上皮(じょうひ)の下の歯肉結合織におよびます。
④発展期病変
 確立期病変の炎症がさらにひどくなった状態で、歯周炎といわれるものです。炎症は歯肉の部分を越えて、内部の歯根膜(しこんまく)、歯槽骨にまでおよんでいます。
●歯周組織の変化
 歯肉炎や歯周炎になると、歯周組織にさまざまな変化がおこります。歯肉炎の基本的な変化は、歯についている歯肉(付着上皮)のすぐ下の歯肉結合織にみられます。この部分の血管が充血したり拡張したり、血管からの成分が外に出て液状成分が組織にたまります(浮腫(ふしゅ))。また好中球(こうちゅうきゅう)やリンパ球など炎症と関係のある細胞が多数出現します(炎症性細胞浸潤(えんしょうせいさいぼうしんじゅん))。
 歯肉炎のなかには、浮腫が著しいもの、炎症が強いもの、または線維が増えているものがあります。細胞や線維が増えている歯肉炎は増殖性歯肉炎(ぞうしょくせいしにくえん)と呼ばれます。
 歯肉の縁にだけ組織の破壊(壊死(えし))や潰瘍(かいよう)が形成されるものは急性壊死性潰瘍性歯肉炎(きゅうせいえしせいかいようせいしにくえん)と呼ばれます。
 この歯肉炎では、紡錘菌(ぼうすいきん)とスピロヘータが増えているのが特徴です。紡錘菌もスピロヘータも、正常な人の口の中にいる菌なので、これらが増えるということは、全身衰弱などによって抵抗力が弱くなったためと考えられます。
 歯周炎は、炎症の変化が歯肉を越えて歯根膜および歯槽骨にみられるものをいいます。歯肉炎と同じように、血管が拡張したり浮腫などがおこり、炎症時に出現する細胞が多数現われます。歯周ポケットができ、ポケットをおおう上皮が歯根の先にむかって侵入していきます。さらに、歯槽骨が吸収され、歯根膜線維も破壊されます。その結果、歯と骨とをつないでいた結合組織が失われてしまいます。また、セメント質も変性・破壊などの変化を受けます。このため、歯周病にかかった歯はぐらぐら動くようになります。

[症状]
 歯肉炎や歯周炎の症状の特徴は、①歯肉が赤くなり、腫(は)れる、②痛みがある、③歯肉から血が出る、④スティップリング(歯肉の表面のオレンジの皮に似た小さなつぶつぶ)が見えなくなる、⑤歯肉が盛り上がったり(増殖)やせたり(退縮)する、⑥歯周ポケットが形成される、⑦歯周ポケットから膿が出る、⑧歯がぐらぐらする、⑨口臭がひどい(口気悪臭)、⑩歯垢や歯石が歯の表面についている、などです。
 歯垢によってつくられた起炎物質(炎症をおこす原因物質)や抗原物質が歯周組織にはたらくと、その部位では血液の流れが障害され(循環障害)、血液の成分が血管の外に出ます(滲出(しんしゅつ))。つまり、歯肉の細い血管がまずひろがり、そこに血液が流れ込んで充血がおこります。これによって炎症をおこしている部位は赤くなったり熱をもったりするのです。
 さらに、血管の壁をつくっている細胞(内皮細胞)が障害を受けたり、化学伝達物質と呼ばれる物質の作用によって、血管が物質を通過させやすい性質に変化します(血管透過性の亢進(こうしん))。そうすると、血管内の成分がどんどん血管外へ出て組織内にたまることになるので、歯肉が腫れることになります。
 以上が、炎症をおこした部位が腫れる(腫脹(しゅちょう)する)理由です。好中球などの滲出細胞は血流がゆるやかになると、血管壁にくっつき、アメーバ運動によって血管壁を通過することができるのです。好中球は細菌や特定の物質に近づき(遊走(ゆうそう))、集まる性質をもっています。好中球が大量に集まると、膿がつくられ、排膿(はいのう)や潰瘍の形成といった症状が現われます。

[検査と診断]
 歯周病の診断では、従来からX線写真によって骨の吸収の度合い、歯周ポケットの深さ、付着喪失の程度、歯周ポケットに器具を入れたときに出血があるか、歯の動揺度などについて調べてきました。
 さらに正確で詳しい診断をするために、これらに加えて、最近では細菌学的検査法や免疫学的検査法も行なわれるようになっています。これには、局所の細菌を直接観察する方法、細菌に対する抗体を使って調べる蛍光抗体法(けいこうこうたいほう)、細菌を培養する方法、歯周病の原因菌の特異的なDNAをプローブとして調べるDNAプローブ法、歯肉溝滲出液中の炎症物質を測定する方法などがあります。これらは、診断キットによって、診療室のチェアサイドで簡単に検査できるようになっています。

[治療]
 歯周病の治療は、その原因が細菌であるという考えに基づいて行なわれます。まず原因を取り除き、口の中を清潔にするため、初期治療を行ないます。
 具体的には、腫れや痛みをしずめる、炎症を軽くする、かみ合わせを調整してかめるようにするなどの治療が行なわれます。このなかで、歯に付着している歯垢、歯石、食物残滓(しょくもつざんし)(食べ物の残りかす)などを取り除き、歯や歯肉を清潔に保つためのプラークコントロールがたいへん重要になります。
 歯の表面のよごれ(歯垢や歯石)を取り除くためにスケーリング、ルートプレーニングという処置を行ないます。スケーリングは歯石除去(しせきじょきょ)ともいい、歯に付着している歯石などの異物を取り除く方法です。ルートプレーニングは、キュレットという器具を用いて歯根面の歯垢、歯石、壊死セメント質を除去して滑らかにする方法です。
 歯周ポケットの内側で炎症をおこしている病的な組織を掻(か)き出す、歯周ポケット掻爬(そうは)という治療も、しばしば行なわれます。また、歯周ポケット内の細菌を減らすために抗生物質や抗菌薬をポケット内に入れる薬物療法もよく用いられる方法です。
 以上のような方法では病的な組織を十分に取り除くことができないような場合には、歯ぐきを切って、ルートプレーニングによって歯根面をきれいにした後、歯ぐきを縫い合わせる歯周外科も行なわれます。
 さらに、歯根面の異物を取り除き滑らかにするだけでなく、積極的に失われた組織を再生させるGTRという方法も応用されています。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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