死刑廃止論(読み)しけいはいしろん(英語表記)abolition of capital punishment

百科事典マイペディア 「死刑廃止論」の意味・わかりやすい解説

死刑廃止論【しけいはいしろん】

人道主義的または刑事政策的な見地から死刑を廃止すべきだとする主張後者は,誤判の場合の回復不可能,死刑の威嚇力の否定,被害者の救済にも無益などを理由とする。また,そもそも国家には犯罪者の生命を奪う権限は認められないという法哲学的議論もある。18世紀半ばイタリアのベッカリーアの主張に端を発する。日本でも明治初年に津田真道らが唱え,その後は正木亮らが主唱,1901年来,死刑廃止法案がたびたび提出されたが成立をみていない。なお,ヨーロッパの国々の多くは死刑を廃止している。→死刑廃止条約
→関連項目正木亮

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「死刑廃止論」の意味・わかりやすい解説

死刑廃止論
しけいはいしろん
abolition of capital punishment

受刑者の生命を奪う刑罰を廃止しようという主張。その論拠は,人間が人間の生命を奪うことに対する人道主義的疑問,犯罪予備軍に対する威嚇力への疑問,誤判による救済の不可能性などである。しかし,死刑の威嚇効果自体は世界的に認められており,かつて死刑廃止によって凶悪犯罪が増加したアメリカでは死刑が復活した先例がある。誤判の問題もそれだけで死刑制度を否定する根拠とはなりえず,むしろ誤判をなくす努力がなされるべきで,誤判の疑いのある事例については例外的に刑の執行を停止して再審を待つことが筋である,との論議もある。国際的には,死刑廃止国がヨーロッパを中心に年々増加している。国連総会も 1968年の決議以来,死刑廃止の望ましさを繰返し表明し,89年総会では「死刑廃止条約」を採択,91年発効した。さらに 98年国連人権委員会は,日本,韓国,アメリカ,中国などが反対票を投じたものの,死刑廃止決議案を採択した。

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世界大百科事典(旧版)内の死刑廃止論の言及

【刑事政策】より

…生命刑である死刑については,それを存置すべきかが問題となる。死刑廃止論は古くから主張されているが,存置論も根強く,世界的に見ても,かなりの数の国が死刑を廃止しているが,存置している国も多い。日本の改正刑法草案は死刑を存置することにしている。…

【死刑】より

… この峻厳な刑罰は,つづく普通法期には,ガレー船漕奴や植民地流刑の隆盛が自由刑の出現とも結びついて,裁判所実務によって緩和され,やがて18世紀後半には啓蒙思想の影響下に死刑の退潮は明白となる。ここではベッカリーアの死刑廃止論が有名であるが,ロシアのエリザベータ女帝時代における死刑の廃止(1741‐61),オーストリアのヨーゼフ2世による死刑廃止(1786)なども知られている。プロイセンでもフリードリヒ大王時代に大幅な死刑削減が実現し,1794年の一般ラント法典では死刑に代わって自由刑が中心的な刑罰となった。…

※「死刑廃止論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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