日本大百科全書(ニッポニカ) 「残存主権」の意味・わかりやすい解説
残存主権
ざんそんしゅけん
residual sovereignty
甲国の領土の一部に、乙国の施政権(統治権)が全般的に行使されることが認められる場合、甲国に残されている権限を残存主権という。潜在主権または残余主権といわれることもある。乙国の権限は、単に統治権の行使であり、その地域の処分の権限を含まない点で、割譲とは異なる。乙国は、甲国の同意なくして、その地域の領有権や統治権を第三国に譲渡することはできない。また、その地域に対する統治権の行使が終了したときは、甲国の統治権が当然に回復される。このような甲国の地位を、甲国が残存主権を有するという。
残存主権は、一般的にいえば、租借地にみられる。19世紀末に九竜(きゅうりゅう/カオルン)半島をはじめ中国の地域に認められたイギリスなどの租借地、1903年アメリカがパナマから統治権の移譲を受けた運河地帯などはその歴史的な例である。
わが国で残存主権の語が多く用いられたのは、沖縄など南方・南西諸島の地位に関連してであった。対日平和条約(1952発効)第3条で、アメリカがこれらの諸島を信託統治制度の下に置くことを提案したときには日本国がこれに同意すること、および、それまでの間はアメリカがその地域の立法・司法・行政のすべての権限(統治権)を行使できることが定められた。サンフランシスコ講和会議でアメリカ首席代表ダレスは、この条項を、日本国に残存主権を残すものと説明した。
[石本泰雄]