国家が領域の一部を特別の合意によって他の国家に貸す場合,この領域の一部を租借地という。また,貸した国家を租貸国,借りた国家を租借国,特別の合意を租借条約という。租借条約によって,一定の期限が定められる。租借国が租借地の統治権を行使しない場合と行使する場合とがある。前者は非政治的租借地,後者は政治的租借地である。1898年の条約でフランスがニジェール川沿いの土地を貨物の陸揚げなどのためにイギリスから租借したのは,非政治的租借地の例である。
政治的租借地の著名な例としては,中国のものがあげられる。中国では,租界も設定された。租界は,外国人の居住・貿易権の確保という経済的目的のために設定された。ところが,政治的租借地に関しては,日清戦争に敗れて弱体ぶりをさらした中国に対し領土割譲に類する実際的効果を得ようとした列強の相互牽制のため,また,中国国民の憤激を回避したい清朝の体面のため,〈租借〉という名目が使われたとされる。このような政治的租借地では,租借国が広範な統治権を行使した。それでも,租借条約によれば,一般に中国が租借地の主権をもち,租借地は中国の領域である。そして,租借権が消滅した場合,主権が完全にその効果を回復するとされたから,中国がもつ主権は,日本が復帰前の沖縄,小笠原にもっていた残存主権と似た面があるといえる。
執筆者:松田 幹夫
日清戦争後,まず列強が求めたのは海軍根拠地であった。すなわち,ロシア,ドイツ,フランスは三国干渉によって日本の進出を抑えたことの報酬と称して事実上の割譲を中国に強要した。ドイツは1897年(光緒23)11月にドイツ人宣教師殺害事件を口実に青島を武力占領し,翌98年3月の条約で膠州湾を99ヵ年の期限つきで租借した。これに刺激されて同じ年にロシアは旅順,大連(各25ヵ年),三国干渉に加わらなかったイギリスもロシアとの勢力均衡を理由に威海衛(期限はロシアが旅順,大連を租借している間)と九竜半島(99ヵ年),翌年フランスは広州湾(99ヵ年)をおのおの租借したのである。イタリアも三門湾の租借を要求したが成功しなかった。
これらの地域は広い中国のなかで面積こそわずかであったが,いずれも広大な後背地をもち,経済上・軍事上の重要地域であった。加えて租借条約は租借権のほかに租借地ないし背後地域における鉄道敷設,鉱山開発などに対して租借国の優先権や独占権を必ず規定していた。このように租借地は中国侵略を進める列強にとって絶好の根拠地となったのである。また,日露戦争時の旅順,大連,第1次大戦時の膠州湾のように,租借地の存在によって中国が直接関係しない戦争に巻き込まれる危険があった。膠州湾は第1次大戦後に租借地として日本へ継承されたが,1922年に中国へ還付された。旅順,大連も日露戦争後に日本へ継承され,45年に日本の敗戦とともに消滅した。また,威海衛は1930年,広州湾は45年におのおの中国へ返還された。ただ九竜半島のみはイギリスの香港植民地の一部として存続していたが,84年,中国とイギリスは97年6月末までに香港全域を中国に返還することを明記した共同宣言に調印し,97年香港は中国に返還された。
執筆者:井上 裕正
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ある国が条約に基づいて借り受けた他国領土の部分をいう。19世紀の末よりヨーロッパ列強と日本が、清(しん)国に要求して租借地を得た。まず1898年にドイツが膠州(こうしゅう)湾を、ロシアが旅順(りょじゅん)・大連(だいれん)を、イギリスが九竜(きゅうりゅう)半島と威海(いかい)を、フランスが広州湾を租借した。日露戦争後、日本はロシア租借地(関東州)の権利を取得した。また1919年のベルサイユ条約によってドイツ租借地の膠州湾を引き継いだ。租借国が租借地に対してもつ権利は、租借に関する個々の条約に基づくが、租借国が立法・行政・司法の全般にわたる統治権を行使しうる点で共通している。また、租借の期限も普通は99年と長期間であったため、租借は仮装の割譲であるといわれたが、割譲とは異なる。租貸国は潜在的な主権を維持し、租借国は租貸国の同意なくして租借地の地位を変更しえないからである。期限満了により、またそれ以前でも租借国の放棄によって、租貸国はすべての権利を回復する。その後、租借地は次々に返還され、1984年12月に中英共同宣言が調印され、1985年5月に発効し、1997年7月1日香港(ホンコン)が中国に返還されて英中の租借関係が終了した。また、ポルトガルの領土マカオも1999年12月に中国に返還された。
ほかに特殊なものとして、アメリカが1903年キューバから租借したグアンタナモ湾岸がある。アメリカはこれを海軍基地として使用し、キューバ革命後のキューバ政府の返還要求には応じていない。2002年からはアフガニスタンやイラクで拘束された人の収容所として用いられ、グアンタナモ収容所とよばれている。
[太寿堂鼎・広部和也]
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条約によって一国が他国の領域の一部を借りる場合,その地域を租借地という。租貸国の主権や租借期限の存在のため領土の割譲ではないが,租借国が独占的・排他的管轄権をもつため,実際には割譲とほぼ同様の効果をもった。日清戦争後の中国での各国の租借地が典型。日本もロシアが1898年(明治31)に獲得した旅順・大連の25年間の租借権を,日露講和条約および北京条約(満州に関する日清条約)によって譲り受けた(対華二十一カ条の要求によって99年間の租借に改め,日本の敗戦により事実上消滅)。またドイツの租借地である膠州湾租借権をベルサイユ条約によって一時継承したが,この権利はワシントン会議により中国に還付された。
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各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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