改訂新版 世界大百科事典 「毒消売」の意味・わかりやすい解説
毒消売 (どくけしうり)
毒消丸を売る薬の行商。〈どっけしうり〉ともいう。毒消丸という食傷(胃腸障害),腹痛の売薬は,京都,薩摩(鹿児島),肥後(熊本)など各地にあったが,一般に売薬行商の毒消売といえば越後(新潟)のそれを指す。紺絣の筒袖・脚絆姿の女性の売子で親しまれてきた。当初は男性のしごとだったが,明治に入ってから女性の進出が目だつようになり,未婚女性の半年以上にもわたる長期の,しかも遠隔地への出稼行商だった。越後の毒消丸は新潟市の南西約15kmの西蒲原郡巻町(現,新潟市)を中心に製造された。この地域は近世初期には漁業と塩業を中心とする漁村だったが,砂丘地の開拓がすすんで半農半漁村となった。しかし零細農業のうえに水不足で,幕末には出稼ぎや離村者が相次ぐようになった。こんな背景から,地場産業として毒消丸の製造が生まれ,売薬行商が盛んになった。それが女性中心の行商となったのは,明治になってこの地方の塩業が自由競争で打撃をうけたことから,それまで塩業労働を支えてきた女性たちが売薬行商へと転換をはかったためである。越後の毒消丸は,硫黄(各地の毒消丸の主薬)にキクメイシ(キクメイシ科の腔腸動物,イシサンゴの1種)と白扁豆(びやくへんず)(マメ科フジマメの成熟種子)を配合した丸薬で,キクメイシを配合した消毒丸では,京都山科の金屑(きんせつ)/(きんしよう)丸が有名だったが,金屑丸にみられない白扁豆(健胃・消炎・解毒作用をもつ)が加わっているところに改良の跡がみえる。
執筆者:宗田 一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報