日本大百科全書(ニッポニカ) 「比較静学・比較動学」の意味・わかりやすい解説
比較静学・比較動学
ひかくせいがくひかくどうがく
comparative statics, comparative dynamics
時間の要因を含まない静学モデルにおいても、時間の要因を考慮する動学モデルにおいても、与件とされるパラメーターの値を変化させると、新旧二つのパラメーターに対応して新旧二つの均衡が存在する。パラメーターの変化がいかに均衡を変化させるかを、静学モデルにおいて追究するのが比較静学であり、動学モデルにおいて追究するのが比較動学である。比較静学と比較動学が可能である前提としては、均衡が安定的であることがあげられる。新旧の与件に対応して新旧の均衡が存在するとしても、もし与件が変化したときに経済が旧均衡から新均衡へと移行していくのでないならば、新旧二つの均衡状態を比較することは意味をもたないからである。
たとえば家計の所得が増加したとする。このことは需要を上方にシフトさせ、新しい均衡状態が生まれる。つまり、旧均衡価格下で所得が増加すると、その分だけ超過需要が生じる。超過需要は、価格を新しい均衡点に見あう点にまでおし上げる。かくして現実の経済は旧均衡から新均衡へと移行していく。したがってこの体系は安定的である。
このようにパラメーターの変化の前と後の二つの均衡点を比較することによってパラメーターの変化の経済的影響を分析する比較静学に対し、比較動学は、パラメーターの変化により経済変数が変化する過程を、変数相互の異時点的依存関係によって説明するものである。比較動学が重要となる領域の一つは、成長均衡に関するものであり、技術、嗜好(しこう)、貯蓄性向などの差異が経済成長に及ぼす効果を比較動学は明らかにする。
[内島敏之]