改訂新版 世界大百科事典 「気候順応」の意味・わかりやすい解説
気候順応 (きこうじゅんのう)
acclimatization
人間が原住地の気候と異なる新しい土地に移り住んだとき,最初は異なる気候環境に順応できず,身体の生理機能に異常を生ずる場合が多いが,そのうちにその土地の気候環境に順応してゆくことを気候順応といい,気候馴化,気候順化,風土馴化などとも呼ぶ。新しい気候環境の地に移り住むと人間の生理機能に変化をきたし,それが安定し十分順応するには長い年月を必要とする。しかし,気候への順応能力には人種差ばかりでなく,個体間にも差異がある。たとえば,中国人は相対的にこの順応能力が大きく,ヨーロッパ人は小さく,日本人はその中間であると言われている。また,順応能力は生理機能の変化によってのみもたらされるものではなく,人間は衣服や住居,生産活動などを通じてさまざまな気候に順応している。それゆえ,社会・経済的条件や心理的条件,技術の条件なども重要で,各種の要因とその作用する時間の長短などが複雑にからみ合っている。気候順応の例としてよく日本人の耐暑性があげられる。耐暑性は一般に汗腺数が目安となる。日本人の汗腺数は熱帯の住民より少なく,寒冷地の住民より多い。成長後移住した場合は長年住んでもその汗腺数は変わらない。しかし現地で生まれた場合は,そこの原住民と同じ汗腺数となる。低地住民が3000m程度以上の高山に登ると高山病を起こすが,滞在すれば高山気候に順応し,高山病がなおることもよく知られている。
執筆者:山下 脩二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報