改訂新版 世界大百科事典 「水素エンジン」の意味・わかりやすい解説
水素エンジン (すいそエンジン)
hydrogen fueled engine
水素を燃料とするエンジン(内燃機関)。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンと基本的構造は変わらないが,ガソリンエンジンと異なり,気化器は必要ない。現在,エンジンの燃料はごく例外を除きすべて石油製品であり,将来その需要量が拡大するとともに,石油の埋蔵量が減少すれば当然不足をきたし,また,一方では燃焼ガスによる大気汚染の被害も大きな問題となっている。これに対して,水素は石炭や天然ガスはもちろん,原子力や太陽,波動などあらゆるエネルギー源からつくることができ,かつ無公害化も可能であることから,多くの研究者によって,もっとも効率がよく安全で取扱いの容易な水素エンジンを目的とした研究が行われている。研究は1920年代より始められているが,水素エンジンの長所としては,火花点火が容易で,低い馬力で使うときは効率が高く,無公害であることがあげられる。一方,問題点は高出力ではバックファイヤが起こり,ガソリンを用いた場合の50~60%の出力しか出せず,また,そのときは窒素酸化物NOxが急増することであるが,このような欠点を補うためには,吸気弁が閉じた後の圧縮中に高圧水素をシリンダーに吹き込めばよい。その際,自動車や船の中で簡単に水素を高圧化するためには,液体水素ポンプで圧縮することが理想的であり,このポンプは液体水素が低温で低粘度であるため,無潤滑材料を使い,かつ熱膨張によりポンプ隙間の変わらないくふうを要する。燃料として用いる場合,液体水素は自動車用などにはタンクの重さ,大きさが実用的であり,かつ-30℃くらいの低温水素ガスを噴射すれば,ノッキングや過早着火も防止できて,いっそう性能を向上させることができる。
日本では,武蔵工業大学で1979年液体水素ポンプによる低温水素・直接噴射・2サイクル火花点火エンジンが開発され,最大出力,効率ともガソリンを用いた場合より約25%向上させることに成功した。さらに82年には熱面点火水素ディーゼル燃焼エンジンを開発,これは図のように液体水素タンクに挿入したポンプで60気圧の高圧にされた水素を熱交換器で常温水素にした後,ピストンが最上位置近くで各シリンダーに噴射,燃焼させるものである。水素は圧縮点火が困難なために,ふつうのディーゼルエンジンで用いられる始動用グローに当たる熱面で点火させる方式を採用しているが,圧縮比を高くでき高い熱効率が期待でき,かつ爆発が緩やかで爆発の衝撃が低い長所があり,大型エンジン用に水素が使える道を開くものといえる。
執筆者:古浜 庄一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報