日本大百科全書(ニッポニカ) 「油脂植物」の意味・わかりやすい解説
油脂植物
ゆししょくぶつ
種実や枝、葉などに油脂成分を含有する植物。油脂は食用をはじめとし化粧用や機械用など人類の生活にきわめて重要なものであるため、油脂植物は古くから世界各地で栽培されてきた。油脂植物は分類学上は異なった多くの科にまたがっているが、草本性のものと木本性のものに大別でき、栽培面からも両者は異なった扱いとなる。
種実に油脂成分を含む草本性のものには次のようなものがある。日本で古くから栽培されているものとしてはゴマ(ゴマ科)やナタネ(アブラナ科)などがあるが、ナタネは最近ほとんど栽培されなくなっている。一方、良質の食用油が得られることから、東北地方の一部にベニバナ(キク科)の栽培が始められている。ヒマワリ(キク科)は世界的に畑作の油脂植物として再認識されつつある。第二次世界大戦中に日本でも栽培されたトウゴマ(トウダイグサ科)は重要な油脂作物であった。ラッカセイ(マメ科)は日本では主として生食用に供されており、ダイズ(マメ科)は豆腐やみそなどに加工され消費されているが、これらも油脂源としても利用されている。また、繊維をとったあとのワタの種子からは綿実油(めんじつゆ)が搾られ、利用されている。
木本性のもので種実が油脂の生産に利用されているものには、次のような樹種がある。温帯性のものではツバキ(ツバキ科)があるが、木本性油脂植物の多くは熱帯性である。ココヤシやアブラヤシ(ヤシ科)などは広く熱帯地域に栽植されており、とくにマレーシアでは北ボルネオなどで増殖計画が進められている。アブラギリ類やナンヨウアブラギリ(トウダイグサ科)も油脂源として利用されているが、ココヤシやアブラヤシに比べればきわめてわずかである。近年注目を集めているのは、鯨油(げいゆ)にもっとも性状の似た油のとれるホホバ(ツゲ科)で、メキシコ北部のバハカリフォルニアなどで栽植が始まっている。
葉や小枝に精油成分を含有している植物にも木本性のものと草本性のものがあり、木本性のものとしてはユーカリノキ、クロモジを含むクスノキ類などがある。オーストラリアではレモンユーカリを栽植し、精油成分を蒸留し、ユーカリ油を生産しており、日本にも輸入されている。草本性のものとしてはハッカ、レモングラスなどがある。
石油植物という分野が注目を浴びるようになり、日本でも石油植物の一つとして油脂植物に対する関心が強まり、諸種の研究が行われるようになってきた。
[近藤典生]