日本大百科全書(ニッポニカ) 「石油植物」の意味・わかりやすい解説
石油植物
せきゆしょくぶつ
石油植物という名称は、1977年アメリカの生化学者カルビンが、テルペン系炭化水素および関連化合物などの高発熱量物質を産出し、これを含有する植物をガソリン・ツリーと呼称したことに始まる。カルビンの提唱により話題となった植物はトウダイグサ科のユーホルビア属ホルトソウやアオサンゴEuphorbia tirucalliなどで、1年間に1ヘクタール当り3000リットルの石油にあたる物質がとれるといわれる。これらユーホルビア類に含まれているのは、不揮発性の炭素を30個もつステロイド系トリテルペン類が主体をなしており、アセトンやベンゼンなどで抽出しなければならない。発熱量は高くキログラム当り約1万キロカロリーもあり、熱量の価値は高い。しかしガソリンのようにそのままでエンジンを可動することは不可能である。石油化学の原料や医薬品などの合成原料としての可能性もある。したがって、これら植物の活用はすべて今後の研究結果によるということになろう。
植物界には切り口から乳状の樹液(ラテックス)の出る植物(ゴム植物)は多く、それらはすべて石油植物ともみなすことができる。トウダイグサ科のみでなく、クワ科、キク科、アカテツ科、ガガイモ科など多くの科にまたがって存在する。トウダイグサ科には6000種、ユーホルビア属だけで2000種を数える。したがって石油植物の研究は、単にホルトソウやアオサンゴに限定することなく、広く探索研究を行う必要がある。
さらに油脂植物も当然高エネルギー植物であり、石油植物とも称することができる。すでにユーカリ油で発動機を動かしたり、ひまわり油や菜種油などでディーゼルエンジンを動かすなどの実験が行われた。それらのうち、モノテルペン類を多く含むユーカリノキや、セスキテルペンを含むマメ科植物であるコパイフェラ属Copaifera植物などは、今後の研究の進展いかんで石油植物として興味がもたれる。現在ユーカリノキからはユーカリ油、コパイフェラからはコパイバ・バルサム(天然樹脂の一種)が生産利用されている。
現在、人類社会は莫大(ばくだい)なエネルギーを消費しているが、それらの90%以上を占めているのが石油をはじめとする化石燃料であって、これらの埋蔵量には限界がある。しかし、石油植物は再生産が可能であるばかりでなく、食糧をはじめとする植物資源の生産を目的とした主要農作物の栽培ができない自然の生物相の非常に貧弱な地域で生育可能な種類であることから、乾燥地ひいては地球の緑化、二酸化炭素の活用、酸素の生産に役だつことにつながり、環境保全の立場からも興味がもたれる。
[近藤典生]