内科学 第10版 「泌尿器科的治療」の解説
泌尿器科的治療(腎・尿路系の疾患の治療)
a.腎後性腎不全の治療
尿路閉塞による通過障害が原因で水腎症あるいは水尿管症をきたし,結果として腎不全となった場合を腎後性腎不全という.原因疾患としては,尿路閉塞をきたし得るすべての疾患があり得る.根本的な治療は原因疾患に対する治療であるが,緊急的に尿を誘導することで腎不全は軽快する.下部尿路閉塞に対しては膀胱留置カテーテル(場合により膀胱瘻)を用いるが,上部尿路閉塞に対しては以下に示すような緊急処置を行う.
1)尿管カテーテル(図11-1-33):
尿管カテーテルは,経尿道的に膀胱鏡を用いて先端を腎盂に留置する.先端がJ型(シングルJカテーテル,ダブルJカテーテル)あるいはpigtail型のカテーテルは腎盂から逸脱しにくい.通常は数カ月の留置が可能である.
2)経皮的腎瘻造設術(percutaneous nephrostomy:PCN)(図11-1-34):
PCNは尿を腎臓から直接体外に排出する一時的な尿路変更術の1つである.超音波ガイド下経皮的に腎杯を穿刺しカテーテルを留置する.
尿管カテーテルやPCNなどにより尿路閉塞が解除されると急速に閉塞解除後利尿(post obstructive diuresis)となり著明な脱水になることがあるため,水分補給には十分に注意する必要がある.
b.尿路結石症の治療:
a)体外衝撃波砕石術(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)(図11-1-35):ESWLは体外で発生させた衝撃波エネルギーを体内の結石に収束照射して破砕する.破砕片は尿とともに排石されるが,ときに尿管に詰まってstone streetとなり尿流を停滞する.したがって大きい結石にはあらかじめ尿管カテーテルや腎瘻が必要となることがある.禁忌は妊娠女性,尿管閉塞のあるときで,出血傾向症例や小児,腹部大動脈瘤や動脈石灰化症例には慎重に行う. b)経尿道的尿管砕石術(transurethral ureterolithotripsy:TUL)(図11-1-36A):経尿道的に逆行性に尿路を操作し結石を破砕あるいは抽出する.砕石手段としては電気水圧衝撃波などがあるが,現在ではレーザーが主流である.かなりの水圧で尿管を拡張しながら操作を行うため,感染結石などでは容易に敗血症となり得るため注意が必要である. c)経皮的腎砕石術(percutaneous nephrolithotripsy:PNL)(図11-1-36B):経皮的に腎盂腎杯へ内視鏡を挿入し結石を破砕摘出する.PNLは腎瘻を作成する点で侵襲性が高く,出血,気胸など重篤な合併症をきたしやすい.しかし一度に多量の結石を排出可能で効率がよく,鋳型結石などでは第一選択となり得る.
2)保存的治療:
一般には横径5 mmくらいまでの結石なら自然排石されることが多い.下腎杯にある小結石は逆立ちにより排石されやすい. a)飲水および食事指導:1日尿量2 L以上を確保することは結石予防に有効である.特に夜間では尿が濃縮されるので十分に飲水する.コーヒー,アルコールは尿酸の排泄量を増加させ,紅茶,日本茶はシュウ酸の含有量が多い.カルシウムの摂取量が1日600 mgを大幅にこえる日本人は少なく,制限を必要とする症例は少ない.むしろカルシウム制限はシュウ酸の尿中排泄量を増加させることから,安易なカルシウム摂取制限は危険である. b)対症療法:疼痛に対して非ステロイド系抗炎症薬が用いられる.十分な補液は必要である.これは水分バランスの改善のほか,痛みと腎機能低下によるアシドーシスを改善し,利尿による小結石の移動から痛みを軽減する.尿路感染があれば抗菌薬を投与する. c)薬物療法:尿酸結石に対して尿のアルカリを目的としてクエン酸製剤や炭酸水素ナトリウムの投与,および尿酸合成阻害作用のあるアロプリノール投与が行われる.シスチン結石は硬く,ESWLで破砕されないことも多いため,内視鏡的治療と溶解療法(d-ペニシラミン,α-メルカプトプロピオニルグリシン)の併用が推奨される.
c.水腎症の治療
何らかの尿路通過障害により,腎盂腎杯が病的拡張をきたしたものを水腎症(hydronephrosis)という.原因として腎盂尿管移行部狭窄,異常血管,結石,炎症,腫瘍などが考えられる.腎盂尿管移行部狭窄症に対しては従来開創手術が行われてきたが,鏡視下腎盂形成術も行われ,95%以上の成功率である.
d.膀胱尿管逆流現象(vesicoureteral reflux:VUR)の治療
原発性の膀胱尿管逆流は膀胱尿管移行部の異常に基づく疾患である.水腎症を呈し,尿路感染を繰り返し最終的に腎機能の低下を引き起こすため,膀胱壁内尿管を延長するような開創手術(Leadbetter-Politanoの方法など)が行われてきた.最近では膀胱鏡でコラーゲンを注入するより低侵襲な治療も行われてきており,その成功率は約65%である.[武藤 智・堀江重郎]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報