膀胱尿管逆流現象(読み)ぼうこうにょうかんぎゃくりゅうげんしょう

六訂版 家庭医学大全科 「膀胱尿管逆流現象」の解説

膀胱尿管逆流現象
ぼうこうにょうかんぎゃくりゅうげんしょう
Vesicoureteral reflux
(腎臓と尿路の病気)

どんな病気か・原因は何か

 膀胱尿管逆流VUR)は、膀胱内の尿が膀胱充満時または排尿時に、尿管および腎盂(じんう)内に逆流する現象です。現在では、胎生期や新生児期に超音波検査で膀胱尿管逆流の診断ができるようになってきました。

 この現象は、膀胱尿管接合部の解剖学的異常によって引き起こされるとされています。通常では、膀胱内に圧をかけても尿管へは逆流しませんが、膀胱三角部の形態や膀胱壁内尿管と膀胱壁との進入角度、壁内尿管の長さなどによって逆流が生じると考えられています。

 頻度は、新生児までは男児に多くみられますが、その後は女児および女性に多くみられます。また、家族内発生や多因子による遺伝もあるといわれています。

症状の現れ方

 尿路感染に起因する発熱、腰背部痛・側腹部痛がある場合には、膀胱尿管逆流を念頭において精密検査すべきです。小児の場合、とくに新生児・乳児では機嫌が悪かったり、食欲不振、吐き気・嘔吐などの症状を起こすこともあるので、他の病気との区別が問題になります。

 常時膀胱尿管逆流を生じている場合には、水腎(すいじん)水尿管症(すいにょうかんしょう)を示すようになります。尿路感染を合併している場合は、尿培養で起炎菌を特定し、抗菌薬の投与が必要です。長期間放置して進行すると、逆流性腎症になり、腎が瘢痕化(はんこんか)萎縮(いしゅく)して腎機能が低下することもあります。

検査と診断

 検査は超音波・CT検査、静脈性腎盂造影を行い、最終的には膀胱造影を行います。

 新生児・乳幼児の場合には麻酔をかけて行います。膀胱に過度の圧をかけないようにして造影剤を膀胱内に注入し、膀胱充満時のX線撮影を行います。膀胱尿管逆流は排尿時に最も生じやすいため、可能であれば、排尿時(いきんだ時)に膀胱造影を行います。

 成人の場合には、膀胱内に造影剤を注入して、臥位(がい)・立位・排尿時にX線透視下で、逆流のタイミングを観察しながら撮影します。この際に尿路感染がある場合には、抗菌薬で十分治療してから検査します(腎盂腎炎を併発するおそれがあるため)。可能であれば、膀胱鏡による膀胱三角部・尿管口の観察を行います。

 膀胱尿管逆流が高率に生じる典型的な尿管口の形態には、ゴルフホール型や馬蹄(ばてい)型があります。

治療の方法

 小児期の膀胱尿管逆流は、自然に改善することがあるといわれています。しかし、膀胱尿管逆流の程度が強ければ強いほど、自然治癒の可能性は低くなります。この際、尿管の拡張の有無がその目安となります。

 自然消失しない膀胱尿管逆流に対しては、尿管下端の解剖学的異常により生じるため、尿管を膀胱の新しい別の部位につなぎ合わせる(膀胱尿管新吻合(しんふんごう)術)必要があります。

 いろいろな手術方法がありますが、尿管を膀胱粘膜下にはわせる粘膜下トンネルを作成して逆流を防止することが基本になります。

病気に気づいたらどうする

 新生児・乳幼児では、まず小児科での診察になります。そのうえで、泌尿器科または小児泌尿器科のある専門病院での精密検査と治療が必要です。新生児の管理が必要なため、小児病院や大学病院の小児泌尿器科、小児外科での診察をすすめます。成人の場合では、泌尿器科での診察が必要です。

坂本 善郎

膀胱尿管逆流現象
(子どもの病気)

 腎臓でつくられた尿は尿管を通って膀胱にためられますが、尿管と膀胱のつなぎ目(接合部)の異常のため、膀胱にたまった尿が再び尿管、さらには腎臓に逆戻りする現象を、膀胱尿管逆流現象と呼びます。

 乳児期には約1%の子どもにこの異常が認められますが、多くの子どもでは成長とともに自然に治るものと考えられています。

 膀胱尿管逆流現象の主な原因は、尿管と膀胱の接合部が生まれつき弱く、逆流を防止する弁のはたらきがないためと考えられます(図26図27)。

 この病気が発見されるきっかけで最も多いのは尿路感染症です。これは尿の通り道や腎臓に細菌が入り込んで起きる病気で、高熱や側腹部・背部痛がみられることもありますが、乳児の場合は、高熱のほかに下痢や嘔吐、不機嫌といった一見腎臓とは関係のない症状で始まることもあるので注意が必要です。

 かぜの症状がないのに何回も高熱を繰り返す場合には、尿に異常がないかどうかを小児科医に相談してみてください。

 尿路感染症を起こした子どもの30~50%にこの膀胱尿管逆流現象が隠れているといわれているため、尿路感染症が治ったあとに超音波検査や膀胱造影検査を行って膀胱尿管逆流現象がないかどうか、その程度は軽いか重いかを確認します。

 程度の軽い場合は成長とともに80%以上が自然に治りますが、重症の膀胱尿管逆流現象を放置すると、腎機能が低下して腎不全(じんふぜん)になることがあります。また逆流腎症と呼ばれる長期的合併症を起こし、高血圧や腎不全になることもあります。


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「膀胱尿管逆流現象」の解説

膀胱尿管逆流現象(その他の腎・尿路疾患)

概念
 尿が膀胱から尿管・腎盂へ逆流する現象を膀胱尿管逆流症(vesicoureteral reflux:VUR)とよぶ.正常では膀胱に流入した尿は,膀胱尿管移行部の弁様機能のために,尿管には逆流しない.膀胱尿管移行部の機能障害によって膀胱尿管逆流症が生じ,上部尿路感染症や腎機能障害の原因となる.膀胱尿管逆流症は原発性と続発性に分かれる.尿管は膀胱壁筋層から膀胱粘膜下を斜行し,機能的には尿管から膀胱への一方通行の弁機能を有している.原発性膀胱尿管逆流症は尿管の膀胱への進入部位の位置異常のため膀胱粘膜下内の尿管長が先天的に短いことと,膀胱の筋層の支持組織の形成不全により,弁機能が障害されていることを原因とする(図11-13-4),また尿管口の形態異常もみられ,尿管口の収縮が悪く,開存したままのことがある.続発性膀胱尿管逆流症は神経因性膀胱や排尿障害など,膀胱内圧が上昇することにより逆流防止機構が障害されるとき,および完全重複尿管や尿管異所開口など尿管に奇形を伴うときに発生しやすい.原発性膀胱尿管逆流症は小児の1~2%に認められる,頻度が高い泌尿器奇形である.膀胱尿管逆流症では尿路感染症が起こりやすく,しばしば腎盂腎炎を起こし,さらに腎の瘢痕化,高血圧,腎不全の原因となる.
重症度分類
 小児の尿路感染症のうち,膀胱尿管逆流症は逆流の程度によりグレードI~Vに分類されている(図11-13-5).
 グレードI:尿管のみへの逆流.尿管拡張なし
 グレードⅡ:腎盂・腎杯までの逆流.腎盂・尿管の拡張なし
 グレードⅢ:腎盂・腎杯までの逆流.腎盂・尿管の軽度~中等度拡張.腎杯は正常~軽度鈍円化
 グレードⅣ:腎盂・腎杯と尿管の中等度拡張・屈曲.腎杯は鈍円化するが乳頭は存在
 グレードV:腎盂・腎杯と尿管の高度拡張・屈曲.腎杯の完全鈍円化と乳頭の消失
診断
 膀胱尿管逆流症の存在を疑う臨床徴候として以下の項目が診断に重要である.①膀胱尿管逆流症の家族歴.小児では両親に膀胱尿管逆流症がある場合,小児の2/3に膀胱尿管逆流症が認められる.また兄弟に膀胱尿管逆流症がある場合は膀胱尿管逆流症の頻度が高い.②排尿障害がある場合.③腎盂腎炎を起こした場合や膀胱炎が反復する場合. 尿路感染は膀胱尿管逆流症を疑う最も重要な因子である.排尿時膀胱尿管造影検査が診断確定に必須である.また続発する腎実質の瘢痕は,DMSA腎シンチグラムにおける腎実質の欠損で診断される.
 小児の膀胱尿管逆流症では,男児では,出生前診断されることが多く,尿路感染の既往がないにもかかわらずすでに30%の患者に腎瘢痕化がシンチグラムで認められる.女児は尿路感染症でみつかることが多く,腎障害も軽度である.小児膀胱尿管逆流症の約50%は発達に伴い消失するが,グレードⅣ,Vの膀胱尿管逆流症では20%程度しか消失しない.
治療
 膀胱尿管逆流症症例に対しては,尿路感染による腎障害を予防するために抗菌薬を長期投与することが膀胱尿管逆流症の程度にかかわらず勧められている.高グレードでは,膀胱と尿管を新しく吻合し,膀胱壁内尿管長を長くとることによって逆流を防止する手術が適応となる.最近はコラーゲンを尿管口下に注入することも低グレード症例では有効であることが知られている.手術治療によって尿路感染症は減少するが,腎実質障害を予防する効果はないとされている.続発性膀胱尿管逆流症でも,原発性同様に尿路感染や腎障害が起こる.治療は原因疾患の治療あるいは,残尿がある場合は,導尿により残尿を減らし,また膀胱拡大術を行い,膀胱を低圧に保つ治療が行われる.[堀江重郎]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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