日本大百科全書(ニッポニカ) 「法相宗秘事絵詞」の意味・わかりやすい解説
法相宗秘事絵詞
ほっそうしゅうひじえことば
鎌倉後期(14世紀初頭)の絵巻。国宝。唐の高僧で法相宗の開祖、玄奘三蔵(げんじょうさんぞう)の伝記を叙したもので「玄奘三蔵絵」ともいう。全12巻、76段からなる大作。内容は、玄奘の生い立ちからインドへの求法(ぐほう)巡礼、帰国後の訳経活動、示寂(じじゃく)など一生に及ぶ。詞(ことば)は玄奘の弟子慧立(えりゅう)の著『大慈恩寺三蔵法師伝』に準拠し、鎌倉初期に成った先行絵巻をもとに制作されたと推定される。画面は中国、インドを舞台に異国の風景、風俗の描写に終始する。謹厳な描写と華麗な色彩を綿密に施したその画風は、1309年(延慶2)高階隆兼(たかしなたかかね)作の『春日権現霊験記(かすがごんげんれいげんき)』(国宝)に酷似し、同一筆者、ないしは少なくとも同時期の同系絵師の作と思われる。14世紀初頭の宮廷絵所の作例として『春日権現霊験記』とともに重要。大阪・藤田美術館蔵。
[村重 寧]
『小松茂美編『続日本絵巻大成7~9 玄奘三蔵絵』(1981~1982・中央公論社)』