泥の河(読み)ドロノカワ

デジタル大辞泉 「泥の河」の意味・読み・例文・類語

どろのかわ〔どろのかは〕【泥の河】

宮本輝小説。昭和30年代の大阪の、二つの川が合流し安治川となる地域舞台に、少年信雄と周囲の人々の関わりを描く。「文芸展望」誌の昭和52年(1977)7月号に発表。第13回太宰治賞を受賞。「蛍川」「道頓堀川」とあわせ三部作をなす。小栗康平監督により映画化

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「泥の河」の意味・わかりやすい解説

泥の河
どろのかわ

日本映画。1981年(昭和56)作品。原作は宮本輝(みやもとてる)。浦山桐郎助監督をしていた小栗康平(おぐりこうへい)の初監督作品。製作木村プロダクション。1956年(昭和31)、大阪の河辺の食堂の息子、信雄は荷車から鉄屑(てつくず)を盗もうとしていた少年、喜一に出会う。喜一は対岸に係留している舟に住んでおり、そこには姉の銀子もいる。彼らを食堂に招き、父や母とも交流するようになるが、あるとき、信雄は舟で喜一の母が客をとるところをのぞいてしまう。翌日、舟は去ってゆく。まだ戦争の記憶があり、軍需景気に沸く昭和30年代の庶民の生活と哀感を、繊細かつ残酷に描き出す。映画は寡黙な信雄の視点で、子どもや大人たちの世界をみせる。どこか大人びた優しい姉、唐突に軍歌戦友」を歌う喜一、父の別れた元妻のお見舞い、舟の上で蟹(かに)に火をつける遊び、喜一の母の秘密、禁忌(きんき)の廓舟(くるわぶね)。信雄は世界の複雑さを知り始める。安藤庄平(あんどうしょうへい)(1933―2011)の撮影がみずみずしい。田村高廣(たむらたかひろ)(1928―2006)(父)、藤田弓子(ふじたゆみこ)(1945― )(母)、加賀まりこ(かがまりこ)(1943― )(喜一の母)が脇を固めている。白黒・スタンダード。キネマ旬報ベスト・テン第1位。

[坂尻昌平]

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デジタル大辞泉プラス 「泥の河」の解説

泥の河

1981年公開の日本映画。監督:小栗康平、原作:宮本輝、脚本重森孝子、撮影:安藤庄平。出演:田村高廣、藤田弓子、朝原靖貴、加賀まりこ、柴田真生子、桜井稔、初音礼子ほか。第55回キネマ旬報ベスト・テンの日本映画ベスト・ワン作品。第5回日本アカデミー賞最優秀監督賞受賞。第36回毎日映画コンクール日本映画大賞、監督賞、男優演技賞(田村高廣)ほか受賞。

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