1900年代後半に、大量生産と大量消費に挟まれて進行した流通の近代化である。商品の生産過程においては、オートメーションなどの大規模大量生産方式が大幅に採用され、また、消費過程においては、所得水準の上昇、生活スタイルの都市化、消費者組織の発展、消費者信用の増大など、大量消費構造が定着した。こうした流通過程に前後する両過程の変貌(へんぼう)の影響を受けて、流通過程においても大量流通の必要が生じ、従来の複雑な流通機構、すなわち多段階的な卸売業界の単純化、零細企業を多数もつ低効率な小売業界への大資本・大型店舗の出現などが生じた。これらの一連の現象を一般に流通革命とよんでいる。こうした流通革命は、商品の所有権の移動である取引流通と商品そのものの移動である物的流通の両側面にわたって、大幅に進行している。
メーカーから2ないし3段階の卸売業者を経て小売店に至る流通経路は、主として大手メーカー、あるいは大型小売店などを主導者として、関連する多段階の諸業者を構成員とする一つの流通システムを形成するようになっている。物流も生産者から小売店までの全経路にわたる一つのシステムを構築している。大規模メーカーの場合には、マーケティング手法に基づいて、自己の商品の生産から消費までの全過程を一つの流通チャネルとしてとらえ、市場の深耕と拡大を図ってきた。小売業の場合は、スーパーマーケット、チェーン・ストア、コンビニエンス・ストアなど大量仕入れ・大量販売を行う大型小売店が全国的に展開され、従来の卸売機構に大きな衝撃を与えた。とくに、2000年(平成12)に「大規模小売店舗法(大店法)」が廃止され、大型小売店(ビッグボックスbig box)の出現が相次いだ。そして、関連する地域の住民や在来の小売店舗への影響は相当大きいものがある。最近における小売業界は、産地直送、カタログ販売、テレビ・ショッピング、インターネット販売など無店舗販売が急速に拡大し、卸売店、小売店を経由する流通を回避しようとする現象が拡大している。
卸売業界は、大手メーカーや大型小売店に挟撃されて主導権をとりにくくなっている。しかし、卸売業者のなかにも、流通革命の進行に伴って、大手資本の苦手な地域指向型の経営、ファッション製品など専門性の強化などにより、十分に対応している企業も多い。
1990年代からの、いわゆるバブル崩壊後の変化は、第二次流通革命ということばで特徴づけられている。まず、中小規模の小売業界にあっては、急速な店舗数の縮小とそれに代わるコンビニエンス・ストア店舗数の拡大と定着がある。ついで、いままで急速な拡大を続けてきた大手総合スーパーマーケットや大手デパートの停滞と、モータリゼーションに対応する郊外型大規模店舗の出現が顕著になっている。この背景には、消費者の低価格指向、規制緩和(大店法の廃止)、高規格道路ネットワークの整備、IT(情報技術)革命の進行そしてロジスティクス(企業経営における物資流動)の発達がある。
現在、人口の縮小や高齢化が進行しているが、これらのことが消費構造を変化させ、流通に新しい変革を生じさせる可能性がある。
[野村 宏]
『久保村隆祐・流通問題研究協会編『第二次流通革命――21世紀への課題』(1996・日本経済新聞社)』▽『田島義博・原田英生編著『ゼミナール流通入門』(1997・日本経済新聞社)』▽『野尻俊明編著『知っておきたい流通関係法』(1998・白桃書房)』▽『加藤義忠・齋藤雅通・佐々木保幸編『現代流通入門』(2007・有斐閣)』
昭和30年代の後半,日本でもようやくスーパーマーケットが成長の基礎を固めたころ,流通革命と称する言葉が登場し,流通業界などに一大衝撃を与えた。当時提出された流通革命論は,高度成長期において大量生産と大量消費が進行している事実に着目し,流通においても大量流通体制を基軸とする効率化が迫られるであろう,と予測するものであった。さらに,流通を効率化するには,日本の流通過程における小規模零細性が克服されなければならないと説き,生産が大規模化し,小売段階においてスーパーマーケットなどの大規模小売業が台頭するなかで,たとえば機能的にみて脆弱な中小卸売業者などは淘汰されるであろう,と主張した。
ところで,日本におけるそれ以後の流通業界の動きをみると,小売業者にしても卸売業者にしても数が増えつづけ,そのなかで,相変わらず,小規模零細な流通業者も数が減らないで推移してきた。この面からみると,必ずしも流通革命論が主張するとおりにはならなかったといえる。しかしながら,昭和30年代以降をふり返るならば,流通業界において明らかに上位集中化が進行してきたと同時に,メーカーやスーパー・チェーンの流通掌握力が強化されてきたことが注目される。こうした事態は,かつての日本の流通過程にはみられなかったという意味で革命的なことであり,この点において流通革命論の主張するところと重なり合う部分も出てくるのである。
もともと流通革命論は,1930年代以降のアメリカにおける大量流通体制の進行という事実に着目して,その延長で提起された論理でもあった。世界史的にみて時代の違いがあること,日米の歴史的・地理的条件が異なることを考慮するならば,上記のようなアメリカの事実を踏まえた流通革命論が,日本の現実を十分に説明しえなかったことは当然といえるかもしれない。それよりも重要なことは,今後は,以前とは性格が異なる新たな流通革命が要請されている点である。日本もすでに安定成長期を迎え,社会経済は成熟期の様相を呈しており,消費の個性化・多様化を背景とする少量多品種生産体制の確立が要請されている。そして,INS(高度情報通信システム)を基軸とした情報ネットワークの革新が展開されつつある。こうしたことを考えると,流通には,今までとはまったく異なった変化が生ずることになろう。
執筆者:上原 征彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 (株)ジェリコ・コンサルティング流通用語辞典について 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新