生産者の生産した商品が、生産者から卸売業者・小売業者を経て消費者に至る流通過程には二つの側面が存在する。第一は、所有権の移転を中心とした商業(商品)流通の過程であり、第二は、その商業流通に対応して、必然的に発生する商品の空間的・時間的移動を中心とする物理的な流通の過程である。この後者の過程が物的流通とよばれている。略して物流ということも多い。物的流通は六つの構成要素から成り立っている。中心的構成要素としては、商品の輸送(空間的移動)、保管(時間的移動)の2機能があり、補助的構成要素としては、それらに関連する荷役(にやく)、包装および流通加工の3機能がある。さらに、これら5機能を有機的に結合する機能として情報システムがある。
物的流通の考え方とそれに関連する技術は、1950年代中ごろ、日本経済の敗戦からの復興期に先進技術の導入の一環として、アメリカより導入されたものであるが、その効果の優れていることから、高度成長期の1960年代末から1970年代にかけて産業界で急速な普及をみせ、流通の近代化に貢献した。そして、石油危機以後の1970年代から1980年代にかけて、低成長時代にあわせた物流システムの再構築が広範に進行した。
このシステムは、ロジスティクスとよばれ、従来の販売のための物流(川下物流)に加えて、調達物流(川上物流)や社内物流など、企業を取り巻く全物資の流動を包含しており、企業戦略と密接に対応して機能するように設計されている。
日本の生産財・消費財の生産あるいは流通に従事する大規模企業は、商品の「軽薄短小」と「多様化」の時代にあわせて物流システムを再構築し、市場の動向に敏感に反応するサービス・レベルの高いシステムの構築を行った。これら諸企業の物流システム(ロジスティクス)を詳細にみると、それぞれの企業の製品・商品の特性、市場圏の大きさ、マーケティング戦略の差異、そして情報システムの機能の差異などによって、微妙に異なっており、それぞれ独自性をもっている。
こうした荷主企業の動向に対応して、貨物輸送業者、倉庫業者なども、従来の単なる貨物輸送や保管のサービスから脱皮し、荷主企業の物流システムと連動する自己の物流システムを構築し、物流専門業者となっているものが多い。加えて、物流システムを保有できない中小荷主企業に対し、物流業者の物流システムによる代行サービスも提供しつつある。現在、荷主企業者の直面している課題は、使用済みの製品や包装材料などの回収処理のいわゆる静脈物流の構築であり、物流業者の課題は、窒素酸化物(NOx)をはじめとするトラックの排ガス対策である。日本経済のグローバル化による荷主企業の海外進出に伴い、物流業者の海外進出もみられ、グローバル・サプライチェーン(供給連鎖)も展開されるようになった。
[野村 宏]
『廣岡治哉・野村宏編著『現代の物流』(1994・成山堂書店)』▽『湯浅和夫著『物流とロジスティクスの基本』(2009・日本実業出版社)』▽『角井亮一著『物流がわかる』(日経文庫)』▽『中田信哉著『ロジスティクス入門』(日経文庫)』
生産物の生産から消費にいたる過程での効率的移動に関する一連の活動を包括的に表現する用語。略して物流ということも多い。企業の生産活動は原材料の調達,加工,流通の三つに区分されるが,原材料の調達においても移動を必要とするため,これを物的流通の一部に含めることがある。そのため調達に関連する物的流通(調達物流)と販売に関連する物的流通(販売物流)に分けて用いられる。しかし多くの場合,物的流通といえば販売物流を指す。流通の機能は,次の四つのギャップを解消することである,といわれる。(1)空間的ギャップ,(2)時間的ギャップ,(3)意識のギャップ,(4)所有のギャップの四つである。空間的ギャップをうめるための活動は輸送であり,時間的ギャップをうめるための活動が保管である。意識のギャップをうめるのは広告,宣伝であり,所有のギャップをうめるのは取引である。広告のような販売に関連する活動,あるいは卸売・小売に関連する取引は商業取引に関連するため,これらを商業流通と呼び,それに対して輸送や保管を物的流通と呼んで区別する。したがって物的流通の主たる活動は輸送と保管であるが,それに付帯して包装,荷役,情報連絡をともなうため,物的流通の活動内容は次のように区分されるのが普通である。(1)包装packaging,(2)荷役material handling,(3)輸送transportation,(4)保管inventory,(5)情報informationの五つがそれである。物的流通という用語の代りに,ビジネス・ロジスティックスbusiness logisticsという用語がほぼ同じ意味で使用されることがある。ロジスティックス(兵站(へいたん)学)は第2次大戦中にアメリカ軍が軍用物資の補給を能率的に行う必要に迫られたことで進歩したもので,それが製造業や商業に応用されるようになったのである。
物的流通の重要性が着目されるのは1960年代以降のことである。資本主義各国の高度経済成長によって商品生産が急増し,それに関連して販売活動が重視された。販売を合理的に行うための販売戦略の必要性が強まったことから,流通の重要性が注目を集め,物的流通の合理化もその一環として重視されるようになったのである。一方,交通革命によって自動車や航空機が広く利用されるようになって輸送面においても多様化が進み,物的流通の方法も変わってきた。最近では通信・情報処理システムも大きな変革を遂げようとしている。これらの変革はいずれも従来の物的流通に大きなインパクトを与え,新しい物的流通システムを可能にするものである。
物的流通の近代化・合理化は,このような変革を背景に進んできた。日本における物的流通の近代化・合理化は,1960年代から漸次進行した。まず荷役が機械荷役にかわったことから,荷役の省力化が進んだ。続いて包装,輸送,保管のそれぞれについて大きな変革がみられた。そのおもなものは,輸送におけるコンテナー化(コンテナー輸送),パレット化,保管における自動倉庫,コールド・チェーンの導入などである。今後の物的流通としては,輸送や保管における情報・通信システムの多面的活用が考えられ,これまで以上に低コスト・高サービスが可能になるものと思われる。
執筆者:岡田 清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 (株)ジェリコ・コンサルティング流通用語辞典について 情報
…流通には,商品経済に固有の流通すなわち商品売買の連鎖的過程の意味と,いわゆる物的流通すなわち生産物の物理的移動との二つがあり,両者ははっきり区別されねばならない。ただし一般的には,商品の売買が行われると,それにともなって商品の場所的移動も行われることが多いので,両者はきわめて混同されやすい。…
※「物的流通」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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