日本大百科全書(ニッポニカ) 「海石榴市」の意味・わかりやすい解説
海石榴市(つばいち)
つばいち
奈良県桜井市に所在した古代の市。「つばきのいち」とも称し、海柘榴市、椿市とも記した。軽市(かるのいち)、餌香市(えがのいち)などとともに三市とよばれ、『日本書紀』に「海柘榴市の巷(ちまた)」「海石榴市の亭(てい)」、『万葉集』にも「海石榴市の八十(やそ)の衢(ちまた)」とみえる古代の一大中心地。歌垣(うたがき)が行われたことでも知られる。大和(やまと)盆地南部の三輪山麓(みわさんろく)にある大神(おおみわ)神社に近く、また飛鳥(あすか)のすぐ北方にあたり、大和の南北の幹線道路の一つ上ツ道が、水運に利用された初瀬(はせ)川を渡る地点に近接する古代の水陸交通の結節点に位置した。この機能は、大神神社門前の集落として、やや位置を移しながらも継続したものとみられ、長谷(はせ)観音詣(もう)での拠点、大和盆地南西部の中心としても栄えた。
[金田章裕]