消化管出血に対する治療

内科学 第10版 「消化管出血に対する治療」の解説

消化管出血に対する治療(内視鏡的インターベンション)

(2)消化管出血に対する治療
 消化管出血の場合,その部位はどこか,原因は何か,出血の程度はどのくらいかなどによって対処法が異なってくる.消化性潰瘍や腫瘍に伴う露出血管からの出血や,毛細血管の拡張症,大腸憩室からの出血に対しては,局注法や熱凝固法,クリッピングなどが用いられる.一方,食道・胃静脈瘤による出血に対しては,内視鏡的硬化療法や内視鏡的静脈瘤結紮術が用いられる.
a.一般的な消化管出血に対する止血法
 ⅰ)局注法
 純エタノールやエピネフリン添加高張食塩水(HSE)を,出血部位に注入して止血する方法である.純エタノールは,強力な脱水・固定作用があるため血管や血液を瞬時に固定して止血する.ただし固定された組織はやがて壊死してしまうため,過剰な局注は禁物である.HSEはエピネフリンの作用により血管を収縮させるとともに,注入された薬液により膨隆した粘膜下組織が血管を圧迫することや,高張液により血管が変性することにより止血効果が得られる.これらの止血法は,露出血管を伴う消化性潰瘍や腫瘍組織からの出血に用いられることが多い.
 ⅱ)熱凝固法
 ヒータープローブや高周波止血鉗子,APCなどを用いて血管を熱変性させて止血する方法である.ヒータープローブは出血部位に直接接触させ,高周波止血鉗子は出血している血管を直接把持して通電凝固する.これに対してAPCはイオン化されたアルゴンガスを介して,非接触的に高周波電流により粘膜表層を焼灼する方法である.いずれも消化性潰瘍や腫瘍組織からの出血に対して用いられるが,APCはより広い範囲を比較的均一に焼灼することが可能であるため,広い範囲からの滲出性出血や毛細血管拡張症に伴う出血,特にDAVE(diffuse antral
vascular ectasia)などの止血処置にも有用である.
 ⅲ)クリッピング
 内視鏡の鉗子孔から挿入可能な,ステンレス製のクリップを用いて責任血管を挟んで機械的に圧迫止血する方法である.血管の太さによらず止血が可能であるため,ほかの方法では止血が困難な,太い血管からの拍動性の出血などにおいても有用である.また局注法や熱凝固法とは異なり,組織傷害性がほとんどないすぐれた止血法である.しかし,正確に責任血管を把持できない場合には効果が期待できないため,出血部位が同定できない場合には止血困難であり,止血のために複数本のクリップを要することもある.
b.食道・胃静脈瘤に対する止血法
 i)内視鏡的硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy:EIS)
 5%オレイン酸エタノールアミン(EO)を血管内に注入する方法と,1%エトキシスクレロール(AS)を血管外に注入する方法がある.通常,食道・胃ともに静脈瘤がみられる場合,供血路の根絶を目指して,食道静脈瘤バルーンで遮断した後に造影剤と混合したEOを,X線透視下に食道静脈瘤から胃静脈瘤まで逆行性に注入する.注入された薬剤により血管内皮細胞の傷害が起こり,血栓が形成され静脈瘤が消失する.ただし,これだけでは残った健常粘膜部に静脈瘤が再発する場合が多いため,ASの血管外注入を追加する場合が多い.いずれの場合も,注入された薬液は組織傷害性が強いため,限られた量のみを注入し,1週間程度間隔を開けて複数回の治療を行う.EISは,高度の黄疸や低アルブミン血症,高度の腹水が認められる症例では禁忌である.
 一方,胃静脈瘤単独の場合は食道側からの注入は行えず,血流も豊富であるうえにバルーンでの血行遮断が不可能であるため,EOやASによる硬化療法は行えない.このような場合,わが国では保険適応とはなっていないが,瞬間接着剤であるシアノアクリレート系薬剤を,胃静脈瘤内に直接注入する方法が行われている.この薬剤は血管内に注入すると瞬間的に凝固するため,注入域の血管が塞栓され結果的に静脈瘤が消失する.この治療の場合,習熟した術者であれば1回の治療で注入域の血行を完全に遮断することができるため,治療を繰り返す必要はない.
 ⅱ)内視鏡的静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL)
 先端にゴム製のバンドを装着した透明フードを内視鏡にセットし,食道静脈瘤をフード内に吸引した後に,バンドをリリースして静脈瘤を結紮する方法である.結紮された部分は壊死・脱落し,血行が遮断された下流の静脈瘤も消失する.硬化療法に比べて非常に簡便かつ安全であり,緊急時の対応も容易であるため頻用されているが,再発をきたしやすい.また胃静脈瘤がある場合には,結紮後に上流域にある胃静脈瘤が悪化してしまう場合がある.したがってこのような症例に緊急止血としてEVLを行った際には,EISなどによる追加治療が必要である.[矢作直久]
■文献
日本胃癌学会編:胃癌治療ガイドライン(医師用),2010年10月改訂第3版,金原出版,東京,2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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