液晶ディスプレー(読み)えきしょうでぃすぷれー(英語表記)liquid crystal display

日本大百科全書(ニッポニカ) 「液晶ディスプレー」の意味・わかりやすい解説

液晶ディスプレー
えきしょうでぃすぷれー
liquid crystal display

液晶の光学的性質が電気的に変化することを利用して、数字、文字、画像などを表示する電子装置。LCDと略記する。それ自体は発光しないが、薄型で消費電力が少なくできることから、電卓、電子時計用に商品化されて以来、テレビ、ノート型パソコン向けなどに普及した。また、カラー化に伴ってビデオモニター、携帯電話、カーナビゲーション用などと広く用途を拡大している。

 液晶とは、液体でありながら結晶のふるまいをする物質をいう。液晶は、材料によって種々のモード(動作形態)を示す。液晶を構成する個々の分子原子は、液体同様つながっていないが、結晶のように一定方向にそろって並んでいて、電圧が加わると配列の方向を変える性質がある。液晶ディスプレーは液晶を2枚の電極で挟み、この性質を利用する。

[岩田倫典 2015年4月17日]

液晶パネルの構造

液晶ディスプレーの液晶層の基本は、上下お互いに90度回転した配向膜偏光板で挟まれている。液晶分子は配向膜の一定方向の微細な溝列に沿って並ぶので、偏光板から入った光は液晶分子のすきまを通る際に90度回転して反対側の偏光板から出てくることになる。液晶層に外部から電圧を加えると、液晶分子はその配列を偏光板に垂直に変えるので光は回転せず偏光フィルターで遮断される。

 このため、電卓などのパッシブディスプレーは、パターンや数字セグメントの形の透明電極に電圧を加え、液晶層で入射光を偏光させ、背面の偏光フィルターで必要な光を透過させることにより、残った反射光で陰像を浮き立たせる。これとは別に、反射光を積極的に利用するパッシブ型があるが、これは液晶層を透明電極と偏光フィルターと反射板で挟んだものである。

 カラーテレビなどのアクティブ型のカラー液晶ディスプレー・パネルでは、0.65ミリメートル厚程度の配線や、薄膜トランジスタ回路と画素を構成する個々の赤(R)、緑(G)、青(B)のサブ画素用の電極アレーの基板、3マイクロメートル厚程度の配向膜に挟まれた液晶層、0.65ミリメートル厚程度のカラーフィルターと透明な電極を、さらに、両面を0.2ミリメートル厚程度の偏光フィルターで挟んだ構造になる。

[岩田倫典 2015年4月17日]

駆動方式

駆動方式には、単純マトリックス方式(パッシブマトリックス方式)と、アクティブマトリックス方式がある。単純マトリックス方式の場合、電卓やデジタル時計にみられるように、文字の要素の形、またはお互いに交差した縞(しま)状の電極で液晶を挟み、対向している電極に信号電圧を加え、電極の文字等の形または点画によりパターンを表示する。しかし、パターンを構成する画素の精細さと動作速度に限界がある。このため、カラーテレビなどに用いられるアクティブマトリックス方式では、サブ画素用に薄膜トランジスタ(TFT:thin film transistor)を配し、そのスイッチング作用により高速で精細な画像が得られる。

 液晶材料も、電卓、デジタル時計、ワープロなどでパッシブ方式の実用化を推進したシアノ系のねじれネマチック(TN:twisted nematic)モードにかわって、1990年代にはアクティブ方式に適したフッソ系液晶材料の量産実用化が進んだ。1996年には初期の駆動用のアモルファスシリコン薄膜トランジスタ(a-Si TFT)にかわって高速動作の低温ポリシリコン多結晶(poly-Si)TFTも開発され、21世紀になると、画素数1920×1080の50型を超えるハイビジョン(HD:high definition)用液晶テレビも商品化されている。

[岩田倫典 2015年4月17日]

光の利用法

光の利用方法により液晶ディスプレーにはバックライトを利用する透過型、周囲の光を利用する反射型、この両者を併用する半透過型があり、これらにはディスプレー装置から得られる光で直接見る直視型と、スクリーン上に投影したものを見る投射型がある。

 透過型は液晶分子の結晶配列をパネル両面でお互いに直交するように90度ねじったTNモード、90度以上ねじったSTN(super TN)モードのものが主流である。反射型には入射光と出射光の間に、円偏光と直線偏光に変換を行う旋光性と複屈折性が交ざったMTN(mixed TN)モードを利用した一枚偏光板方式で明るい像をつくるものもある。半透過型は画素の透明電極のほかに、透過光が通る穴を開けた拡散反射電極を設け、反射光にも適応する。投射型は反射型や透過型の液晶パネルを投射光の光量を制御するライトバルブとして用いる。

[岩田倫典 2015年4月17日]

歴史

液晶の発見者はオーストリアの植物学者レーニッツァーFriedrich Reinitzer(1857―1927)で、1888年に安息香酸エステルが、145.5℃で結晶から虹(にじ)色の複屈折効果をもつ粘り気のある物質に変わり、さらに、178.5℃でさらさらした液体に変わることを発見。翌年、この解析にあたったドイツの物理学者レーマンOtto Lehmann(1855―1922)は虹色の物質を流動性結晶、液晶、と名づけた。しかし、固体結晶の構造それ自体が解明されたのはその四半世紀後の1912年である。

 さらに遅れて、液晶状態の物質を電場の中に置くとディスプレーとして使える現象がおこることをアメリカのRCA社の研究員が発見。記者発表でデモンストレーションを行ったのは1968年のことである。これに興味を抱いた研究者たちは1969年に室温を含む広い温度範囲で動作する材料の合成に成功、1972年にはアメリカでデジタルウォッチモジュールに利用された。日本もこれに続き、翌1973年(昭和48)にはシャープ社によりパッシブ型液晶ディスプレーを用いた最初の本格的量産品としてポケット電卓が発売された。同年、デジタル腕時計も発売されている。さらに、1970年代後半には単純マトリックス方式が開発され、1983年には最初の液晶白黒テレビ、1984年には日本のエプソン社がアクティブマトリックス方式の液晶カラーテレビを発売。そのほか、電子辞書、デジタルカメラ、計器用のディスプレー、カーナビゲーション、携帯電話用などに広く普及しているが、さらに、立体ディスプレー、眼鏡型ディスプレー、バーチャルリアリティ(仮想現実)ディスプレーや電子ペーパーなどへの期待は大きい。

 パネルのサイズは1991年の初代の30×35センチメートルの小型のものから、2009年には第10世代の288×313センチメートルの巨大なものまで製造ができるようになり、テレビの大型化も進み、画質もカラーブラウン管並みになって急速に普及した。

[岩田倫典 2015年4月17日]

『水田進編著『図解雑学 液晶のしくみ』(2002・ナツメ社)』『苗村省平著『ビギナーズブックス33 はじめての液晶ディスプレイ技術』(2004・工業調査会)』


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