一定の要求をもつ人々が、その要求を達成するのに必要な意思を固めるために結集し、集団の団結力を誇示することによって、相手方に心理的圧力をかけると同時に、一般世論にもその要求・主張の正当性を訴えかける示威運動のことをいう。簡略化してデモと表されることが多い。
デモは近・現代における労働者や一般市民大衆の意思表示の重要手段であり、それによって団結を強め運動を高揚させることができるので、運動の重要な転換点で多用されている。デモの種類はきわめて多様であり、それを分類することにはあまり意味はないが、デモの形式に関しては、デモ集会、デモ行進がもっとも一般的なものである。デモはかつては、旗を立て、要求を書いたプラカードを掲げ、鉢巻をし、要求をシュプレヒコールの形で繰り返していくのが最大公約数であると考えられていたが、今日その表現方法はきわめて多様化している。デモの形態や方法もさまざまであるが、ジグザグデモ(スネークダンス)やフランス式デモ(道路いっぱいに広がって行進するデモ)は、その表現のおもしろさから多くの人々に強烈な印象を残した。
一般大衆の要求の表現方法やそのチャンネルが多様化するとともに、デモはその有効性を失いつつあるという意見も聞かれる。デモが目に見える形で結果をもたらすことが稀(まれ)であるからだろう。しかし、デモが支配者に与える心理的圧力は依然として強いものがあり、ベトナム戦争の末期、当時のアメリカ大統領R・ニクソンは、ホワイトハウスの奥深くでデモ隊の抗議の声に神経をとがらせていたというエピソードは有名である。
デモンストレーションを最広義にとれば、そのなかに権力者や国が行う自らの力の誇示を目的としたデモをも含めることができるだろう。事実このようなデモは、ナチスの例を持ち出すまでもなく、歴史上かなり頻繁に行われてきた。しかしその一方で権力者たちは、真に大衆的なデモ、民衆の積極的な自己表現としてのデモを、治安対策という視点からなんとかして規制しようとする。日本では1948年(昭和23)の福井市における公安条例の制定以降、多くの自治体でデモの事前届出・許可が義務づけられている。このようななかでデモをより有効なものにしていくためには、運動に対する社会の支持を獲得する地道な努力が必要であり、かつまたデモ参加者の自己規律の確立が叫ばれている。なによりもたいせつなのは、だれでもが参加できるようなくふう、運動の表現方法、団結強化の方法の自己革新などであろう。そのことを例証しているのは、2011年(平成23)の福島第一原子力発電所の事故後に、脱原発デモが広がりをみせ、デモの意義が再認識されていることである。
[矢澤修次郎]
示威,あるいは示威運動。力のあること,用意のあること,支持勢力のあることなどを集団的に示すことによって,その対象に心理的圧力を加えること。一般に〈デモ〉ともいわれる。今日,デモという用語は,政府や経営者に対して要求をもつ国民や労働者による示威行進paradeの意で用いられることが多い。そのため示威行進の際には,要求貫徹の決意を誇示する目的から,その要求をプラカード,横断幕などに記し,集団で隊列を組み自己を示す旗などを押し立てる。示威行進は,その目的に応じて陳情デモ,抗議デモ,同情デモなどに分けられ,その形態によってジグザグデモ,駆足デモ,フランスデモ(デモ参加者が互いに手をいっぱいに広げてつなぎ,道路いっぱいに行進を展開する)などに分けられる。また,同様の意図でなされる示威行動として,〈座込みsit in〉〈ストライキstrike〉〈サボタージュsabotage〉〈ハンガー・ストライキhunger strike〉〈ダイ・インdie-in〉などがある。示威行為は憲法21条に規定する表現の自由のひとつと考えられている。しかし,このような示威行動は,国民や労働者の意思の表現としてなされ,社会的・政治的衝撃力をもつ。と同時に,政府や経営者はその影響を恐れて,神経質に対応する傾向を強くもつ。そのために交通整理や公共秩序維持の名目でさまざまな規制を設けてきた。地方自治体が制定する公安条例はその例である。
また,国家(政府)も示威行為を行う。議員バッジの着用,議員らしきかっこう・口調などは日常の場における示威行為である。国威を示すべくなされる軍事パレード(観兵式,閲兵式など),航空機・戦艦などによる編隊ショー,警察官による隊伍などは儀礼的示威行為である。これらの示威行為は,他国への示威と同時に自国民の国威宣揚に目的があり,それは心理的威嚇脅迫であり,愛国心の発揚や秩序維持の役割を担う。
商業界では,新製品の発売にともなって一大キャンペーンをはり,その製品を人々に広く知らしめる行為をデモンストレーションという。このデモの良し悪しが製品の売行きに大きく影響してくる。スポーツなどでは,模範演技のことを指し,みずからの技量を相手チームや観客に披露することである。したがって,デモの成否はチーム全体の威信に大きくかかわり,デモに選ばれた者はその技術を評価されたこととして誇りであり,観る者にとってはあこがれの対象となる。また,応援団,観客などによる拍手,声援もデモの一種である。
→ディスプレー
執筆者:遠藤 公嗣+黒田 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…同様に人為的に条件を簡単化して現象を起こさせるのであるが,すでにわかっていることを〈目で見てわかるように示すため〉の操作も実験と呼ばれている。これは正しくは〈教授実験demonstration〉と称すべきものであって,教育上の一手段である。 狭義の〈実験experiment〉が自然研究の重要な手段になったのは16世紀から17世紀にかけてのヨーロッパであった。…
…狭義では,言論・出版等の思想表現行為に対し,公権力が事前にその内容を検査し,不適当と認めるときは規制(発売・発行・上映・上演・放送等の禁止・変更・カット等)を加える措置をいう。しかし,発表後であっても,処罰が過酷・無原則であるため自主規制を余儀なくされる場合には,やはり実質上検閲を構成することになる。広義では,公権力のみならず,社会的に力をもつ個人や団体が同様の規制を行うことも検閲といえる。日本国憲法(21条2項)のみならず,近代憲法は原則として検閲を禁じているが,最近では,検閲行為は送り手(発表者)の自由侵害だけでなく,受け手(読者,視聴者)の知る自由を奪うものとして,絶対的に禁止すべきだ,と考えられるようになった。…
…地方公共団体の制定する条例で,主として道路・公園その他公共の使用に供される場所における集会,集団行進,集団示威運動(デモンストレーション)を取り締まる目的で各種の制限を定めるものの総称。公安条例を正規の表題とするものはなく,〈集会,集団行進及び集団示威運動に関する条例〉(東京都,京都市等),〈行進又は集団示威運動に関する条例〉(愛知県等),〈多衆運動に関する条例〉(石川県等)等の表題をもつ。…
…アメリカ憲法の強い影響を受けた日本国憲法は英米型であり,その21条1項で〈集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由〉としてこれを保障した。なお,デモンストレーションいわゆるデモも,動く集会と考えられ,表現の自由の保護を受ける。 明治維新以後の日本では,とくに自由民権運動の活動が集会条例などで厳しく抑圧され,また,明治憲法29条にいう集会の自由も〈法律ノ範囲内〉に限定され,治安警察法は,集会や集団行動の開催,参加者,内容上の制約などを詳細に規定していた。…
※「デモンストレーション」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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