改訂新版 世界大百科事典 「深海漁業」の意味・わかりやすい解説
深海漁業 (しんかいぎょぎょう)
deep-sea fishery
200m以深1000mぐらいまでの深海にすむ水産動物を対象として行う漁業。海洋生態学では3000m以深を深海とし,200m以浅の表層との間をさらに中深層,漸深層と区分するが,水産的には大陸棚を超えた200m以深を一般に深海とする。従来も,メヌケ類,アブラツノザメ,ムツ,キンメダイ,サクラエビ,バイなどを対象として深海漁業は行われていたが,水深が深くなるにつれて操業が格段に難しくなること,一般に浅海に比べて生物が豊富でないことなどの理由で,あまり重要視されていなかった。近年,伝統的資源の枯渇の傾向,200カイリ問題などのために新資源の開発が進められているが,南極海のオキアミ,諸水域の頭足類などを別にすれば,おもなものは深海性の水産動物である。トロール漁業,籠(かご)漁業などの技術的な進歩によって水深1000mまでは漁労可能範囲となっている(これまでの最深引網記録はソ連船による1370m)。現実に,新開発された深海漁場から漁獲されたクサカリツボダイ,キンメダイ,ホキ,ミナミダラ,ベニズワイガニ,イバラガニモドキなどが次々とわれわれの食膳にのぼるようになっている。資源的には外洋の水深1000mぐらいまでに分布するハダカイワシ類が多いことがこれまでの調査で知られているが,利用・漁獲方法に難があり,開発は遅れると見られる。これらよりも,大陸斜面に分布するタラ類,ソコダラ類,カレイ類,アカウオ,タチモドキ,タイ類,アジ類,エビ類,カニ類などが注目される。漁具としては密集魚群に対してはトロールがよいが,密度が低い場合ははえなわ,刺網,籠などが効率がよいと考えられている。深海漁業は今後発展が予想されるが,深海性の種類については生物学的知見が少なく,資源管理に必要な情報も乏しいので,開発は慎重に進める必要があろう。
執筆者:清水 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報