トロール漁業(読み)とろーるぎょぎょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トロール漁業」の意味・わかりやすい解説

トロール漁業
とろーるぎょぎょう

底引網漁業の一種。通常、網口を開口させるために、オッターボードと称する拡網(かくもう)板を網口の前方の左右ロープに取り付けた底引網を1艘(そう)の動力船で引き回し、底生生物を漁獲するオッタートロール漁業をさす。このほかにビームにより網口を開口させたビームトロールもあるが、日本ではビームトロールを使った漁業は行われていない。

 ヨーロッパでは1894年ごろにビームトロールからオッタートロールに転換している。日本へは1908年(明治41)にイギリスからオッタートロールが導入された。その後、ディーゼルトローラー(トロール漁船)の出現や、船内急速冷凍装置の改善、船型の大型化などと相まって遠洋漁場へと操業範囲も拡大した。第二次世界大戦後は、急速に発達した科学技術を取り入れ、魚群探知機のほかに各種の漁具監視測器、漁労機械航海計器を有するなど近代化された。操業方式も、従来は舷(げん)側から投揚(とうよう)網をするサイドトロールであったが、1960年(昭和35)ごろからそれらの操作を船尾のスリップウェイから能率的に行うスターントローラーが増加し、漁獲能力はさらに高まった。その反面、トロール操業には底生生物の幼稚仔(ようちし)の混獲や死亡と海底生息場の改変が伴い、当初から沿岸漁業とも競合してきた。そのためトロール漁業の変遷は沿岸から沖合いへ、さらに遠洋へと外延的な新漁場の開拓とその荒廃の繰り返しでもあった。日本で行われるトロール漁業としては、東部ベーリング海とアラスカ湾を主漁場としてスケトウダラカレイメヌケを主対象とする北方トロール、東北・北海道沖で操業していた中型機船底引網漁船を北洋へ転換させた旧349トン型スターントローラーでスケトウダラを中心とする北転船、アフリカ北西岸でイカ、タコ、タイなど、アフリカ南岸でメルルーサ、アジ、タイなど、アメリカ北東部からカナダのラブラドルまでの水域でイカ、ニギスなど、ニュージーランド周辺でアジ、メルルーサ、イカ、バラクーダなど、アラビア海でモンゴウイカアルゼンチン・チリ沖でメルルーサ、マツイカなどをそれぞれおもな漁獲対象とする南方トロールなどがある。

[笹川康雄・三浦汀介]

『津田初二・中谷三男著『船尾トロール入門』(1981・成山堂書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トロール漁業」の意味・わかりやすい解説

トロール漁業
トロールぎょぎょう
trawling

底引網漁業の1つ。オッターボードを用い水の抵抗を利用して網口を広げるオッタートロールと,ビームを張って網口を広げるビームトロールがあるが,現在行われているのは主として前者である。 17世紀末からイギリスで発達,日本には 1908年にもたらされた。漁法の性質上,漁場は平坦な大陸棚で,第2次世界大戦前は主として東シナ海で操業されていたが,機船底引網漁業の進出などで徐々に後退,戦後は北洋,アフリカ沖,ニューファンドランド沖,南アメリカ沖,ニュージーランド沖などの大陸棚を主漁場としていた。特色としては底生魚族を漁獲対象とするために比較的に安定した漁獲をあげることができ,また表層や中層の魚群を対象とするものに比べて技術的に漁獲量をふやすことが容易な点である。しかし,現在では資源保護,漁場管理などの問題から,操業禁止区域の設定や漁網の制限などが行われている。また,200カイリ規制に伴い,公海や他国の沖合いで細々と操業せざるをえず,漁獲量は激減し,漁業経営はきびしい状況におかれている。

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