湖南省(読み)コナンショウ

デジタル大辞泉 「湖南省」の意味・読み・例文・類語

こなん‐しょう〔‐シヤウ〕【湖南省】

湖南

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改訂新版 世界大百科事典 「湖南省」の意味・わかりやすい解説

湖南[省] (こなん)
Hú nán shěng

中国中部,長江(揚子江)の中流域,洞庭湖の南方に位置する省。面積21万0500km2,人口6327万(2000)。省都は長沙市。北は湖北省,西は四川省・貴州省,南は広東省広西チワン族自治区,東は江西省と境を接する。省域が洞庭湖の南にひろがっているのでこの名がある。また湘江が省内を南から北へ貫流するので,略称は湘である。1996年現在,29市(長沙,株洲,湘潭,衡陽,邵陽,岳陽,郴州,冷水江,婁底,洪江,懐化,常徳,津市,益陽など),13地区,1自治州(湘西トゥチャ族ミヤオ族自治州),65県,7自治県(江華ヤオ族,城歩ミヤオ族,通道トン族,新晃トン族など)から構成される。住民の大部分は漢族であるが,ミヤオ(苗)族,トゥチャ(土家)族,トン(侗)族,ヤオ(瑶)族,回族,ウイグル(維吾爾)族,チワン(壮)族の少数民族が約260万人,おもに西部の山地に居住している。

もと湖北省と合わせて湖広省と呼ばれていたが,1664年(康熙3)に洞庭湖を境として南に湖南省を設けた。これが本省の起源である。古くはミヤオ族,ヤオ族など非漢族の居住地であったが,春秋戦国時代には楚国に属した。秦代は長沙郡,黔中(けんちゆう)郡に属し,前漢の高祖は長沙を中心とする湘江中下流域に長沙国を建て,西部の沅江・澧水(れいすい)流域に武陵郡,南部から広東の北江流域にかけて桂陽郡を置き,武帝のときに南西部の湘江上流域に零陵郡を新たに設け,いずれも荆州に属させた。後漢は長沙国を廃して郡とした。献帝の建安年間(196-219),零陵・武陵は蜀に,長沙・桂陽は呉に属したが,のちいずれも呉の領有するところとなり,天門,衡陽,湘東,邵陵,営陽の5郡が置かれた。呉を併合した晋は営陽郡を廃止して,南平郡を増置しともに荆州に属せしめた。恵帝のとき,桂陽郡を江州の属郡とし,懐帝のとき,荆州から湘州を分置して長沙を州治とした。南北朝時代には宋が湘州を置いて巴陵郡を増置するなど,さまざまに変遷したが,隋は諸州を廃止して,改めて沅陵,武陵,澧陽,巴陵,長沙,衡山,桂陽,零陵等の郡とし,ともに荆州に属せしめた。唐は東部を江南西道,西部を黔中道,北西部を山南東道とした。五代には楚国の領域に入ったが,これを滅ぼした宋は荆湖南路とした。元代には湖広行省の管轄地域に入り,明代には湖広布政司に属した。

本省は東・南・西の3面を山に囲まれ,省内には広く丘陵が分布し,南から北に向かって低くなる。全体として200~500mの丘陵が全面積の約1/3を占めている。これは江南丘陵の一部にあたり,赤色砂岩からなる波状に起伏する丘陵地帯で,その間に大小さまざまの多数の盆地が形成されている。おもな盆地には株洲,湘潭,長沙,永興,茶陵などがある。周辺部の山地を構成する諸山脈のほとんどは北東~南西方向に走る。東部の江西省との境には,北から幕阜山,九嶺山,武功山,万洋山,諸広山の山脈が連なり,南部の広東省,広西チワン族自治区との境の山地は南嶺と総称されているが,西から越城嶺,都龐嶺,萌渚嶺,騎田嶺などの山脈から構成されている。北西部には武陵山,中部から南西部にかけて雪峰山がつらなる。これらの山脈の多くは標高600~1500mであるが,山脈の間に形成された谷や鞍部の峠を通って隣接地域と連絡する幹線道路が走る。また中部の丘陵地帯の中にも花コウ岩などから構成される孤立した山峰がそびえ,南岳として崇拝されて五岳の一つに数えられる1290mの衡山がその代表である。

 本省は全域が長江の流域に属し,周囲の山地に発する河川は,いずれも洞庭湖に集められたのち,長江に流入する。なかでも全長817kmの湘江が最長で,広西チワン族自治区北部の海洋山に源を発して,省を縦貫し,支流も多く水量も豊かで,その流域面積は省の30%以上を占める。同様に自治区に発する資水,貴州高原に発する沅江,省の北西端に発する澧水は,いずれも湘江とともに洞庭湖に注ぐ。この湖はもとは中国最大の湖で面積6200km2あったが,松滋,太平,藕池(ぐうち),調弦の4口で長江に相通じ,毎年増水期には長江より大量の泥沙が流入して,湖の東西に比較的幅が広い1条の砂州が形成された。そのためもとの洞庭湖は東洞庭・南洞庭・西洞庭と大通など小さな湖沼群に分割された。現在,洞庭湖の面積は1937年当時の約40%,2820km2に縮小して中国第一の湖の地位を青海湖に譲った。また湖岸の干拓も進み,長江の増水期における水量調節の機能が衰えたが,解放後湖岸の築堤や大通湖の蓄水工事などにより,災害の危険を軽減せしめた。

 本省の気候は温暖湿潤であるが,北部地方では気温の年較差が大きい。長沙は1月の平均気温は4.6℃だが,7月には29.4℃に達し,衡陽とともに最高気温は40℃をこすこともあり,中国の夏季酷暑地区の一つである。これに対し南部地方は,たとえば宜章の1月の平均気温が7.1℃,7月が28.1℃と,冬暖かく,夏は地勢が高いこともあって,北部よりかえって涼しい。年間の無霜期間は,北東から南に8ヵ月から10ヵ月余に達する。雨量は豊富で年降水量は1300mmないし1700mm得られ,4月から6月までに全年の40%の降雨がある。しかし,7月から9月にかけて,ほとんどの地区ではたえず夏干ばつ・秋干ばつの現象が起こる。雨量の地域差については,雪峰山の北面と南東部の山地丘陵に降水が多く1500mm以上に達するが,逆に洞庭湖周辺と衡陽および邵陽の盆地では1300mm前後と少ない。

本省はすぐれた自然条件を有している。しかし春や夏のころには豪雨が多く,山津波も起こりやすい。湘江の下流域は例年のように冠水の災害がある。解放後の治山・治水事業によって洪水・冠水の災害は大幅に減少した。また大小さまざまの灌漑事業が推進されて耕地面積が大幅に増加した。とくに韶山(しようざん)灌漑区が完成したことによって,湘潭・寧郷の三角州地帯では約7万haの耕地が干ばつの脅威を免れるようになり,また欧陽海灌漑区の建設により南部地区の多くの農地が灌漑の恩恵を受けられるようになった。食糧作物は水稲サツマイモ,小麦,トウモロコシが主である。米の生産量は食糧作物生産量の約91%(1995)を占めており,古くより〈湖広熟すれば天下足る〉と称せられた穀倉地帯である。解放後水稲二期作の普及で収量はさらに増加している。主産地は洞庭湖沿岸と湘江中・下流部である。経済作物としては,ラミー麻,綿花,茶,菜種,桐油,大豆,ラッカセイ,タバコ,サトウキビがある。ラミー麻は湘江と沅江の流域で多く栽培され,生産量は全国の生産量の約40%を占め第1位である。茶は臨湘の緑茶,安化と漢寿の黒茶,平江の紅茶が有名で,生産量は浙江省,福建省,雲南省に次いで全国第4位にある。油茶(アブラツバキ)からとった油は農村の食用油として重要である。洪江一帯の桐油は〈洪油〉と称し,品質がすぐれていることで名高く,生産量は四川省に次ぐ。果物はかんきつ類が最も多く,長沙,瀏陽,邵陽,淑蒲,衡山のタチバナ,大庸,洪江のユズが有名である。また洞庭湖沿岸から湘江下流部ではれんこんを特産とし,〈湘蓮〉として全国に知られる。

 森林面積は全省の約30%を占め,代表的な林業地帯の一つである。松類が多いが,雪峰山と南嶺の山地には多量の杉があり,会同県は中国南方で最大の人工杉植林地区の一つであり,おもに広坪に産し〈広木〉と称し,質量ともにすぐれて名高い。畜産は豚が有名で,全国に大量の豚肉とハムを供給し,〈寧郷豚〉として知られている。武岡県産出のガチョウも有名である。また湘江流域と洞庭湖沿岸では淡水魚の養殖が盛んである。

 本省の主要な鉱産資源としては,アンチモン,鉛,亜鉛,タングステン,金,鉄,マンガン,スズ,銅,石炭,リン鉱,水銀,ダイヤモンドなどがある。アンチモンは南嶺山地の外側で,新寧,武岡,邵陽,祁陽(きよう)と東安一帯および省中部の平江,瀏陽から辰渓,芷江(しこう)一帯に産出し,特に新化県のスズ鉱山の産出量が多い。また常寧県水口山の鉛,亜鉛は世界的に著名である。鉄は漣源,寧郷,双峰,茶陵に,石炭は中部と南部に大量に埋蔵される。金とダイヤモンドは沅江の中下流域に産する。水銀は省西部の広い地域に分布している。

 解放後,急速に工業建設が進み,特に金属,機械などの重工業の発展がめざましい。長沙,株洲,湘潭,衡陽,常徳が主要な工業都市で,石炭,鉄鋼,化学,建築材料,紡織,食品,製紙,陶磁器などの工業が発達している。伝統的な手工芸品には,長沙のししゅう,邵陽の竹細工,紙,墨,筆,益陽の竹細工,鉄なべ,瀏陽の石彫,夏布,醴陵(れいりよう)の磁器などが知られている。

 本省は俗に〈三山六水一分田〉といわれるように,河川・湖沼の占める面積が広いので,これを利用して古くより水上交通が発達している。洞庭湖を中心に放射状の水路網が形成され,長江水運の重要部分を構成している。また全省の約95%の県には民船が就航しており,広西チワン族自治区や貴州省までも溯航することができる。小汽船が溯航できる上限は,湘江では零陵,沅江では洪江,資江では安化,澧水では石門までで,それより上流へは帆船が就航している。また鉄道は南北の幹線である京広鉄道(北京~広州)が本省東部を南北に縦貫しており,株洲において杭州に通じる浙贛(せつかん)鉄道に,衡陽において広西チワン族自治区の友誼関に通じる湘桂鉄道に連絡する。また株洲から貴州省の貴陽までは湘黔鉄道が通じている。自動車交通網は,長沙と衡陽を中心にして発達している。航空路も長沙から北京,上海など全国の主要都市に延びている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「湖南省」の意味・わかりやすい解説

湖南〔省〕
こなん

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