日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤオ族」の意味・わかりやすい解説
ヤオ族
やおぞく / 猺族
瑤族
Yao
主として中国南部の山地に居住する少数民族。中国では、広西(こうせい)チワン族自治区と広東(カントン)、湖南、雲南、貴州の各省に住み、さらにインドシナ半島北部にも及ぶ。タイではミエンと自称し、ベトナムではマンと称する。中国国内のヤオ族人口は279万6003(2010)で、広西チワン族自治区にはヤオ族全体の約6割が住む。ヤオ語はシナ・チベット語族ミャオ・ヤオ語群に属するが、非常に複雑に方言が分かれている。ヤオは、山地でおもに焼畑耕作をする部族社会であり、小集団がまとまって広い地域に分散して住むのが特徴である。政治的単位である村落は祖先祭祀(さいし)、外婚制を特色とする父系親族集団である。ヤオは宋(そう)代の『渓蛮叢笑(けいばんそうしょう)』で山猺(サンヤオ)とよばれたように、もっぱら山に住む民族であり、長くヤオの間に伝え保たれてきた漢字体の文書類をもって山を渡り歩いて独自の文化を保ってきた。この文書は、祖先祭祀、成年式、招魂、病気治癒その他冠婚葬祭など彼らの日常生活を律する重要な儀礼や年中行事を行うシャーマン「設鬼(シプミエン)」が使う祈祷呪文(きとうじゅもん)の経典類などである。このなかには占星と関係のある天文暦、風水や農業のテキストなども含まれる。これらの文書を通じてヤオの宇宙観や世界観がうかがえるのである。ヤオの祭りには、春節をはじめとして、社主節、清明節、達努節のほか、若い男女が対歌を歌う要望節などがある。
[清水 純]