微生物の生細胞を殺すことを殺菌といい,滅菌とは非病原菌,病原菌,細菌胞子もすべて殺すことをいう。一般には同じように用いられている消毒とは,病原微生物を殺すことを意味する。消毒・滅菌法には物理的方法と化学的方法がある。
最も簡単な方法は焼却法で,汚染された繊維製品,衣類,紙類などに用いられる。煮沸法は,適当な容器に水を入れ,そのなかに金属,ガラス製品などを入れ,沸騰したらそのまま20~30分沸騰を続ける。この際,清浄な水を用いるが,ガラス製品などは沸騰している水に直接入れると破損することがあるので,水の中に入れ,しだいに温度を上げていき,またゆっくりと温度を下げてから取り出さなければならない。合成樹脂製品のような熱に弱いものには用いられない。コッホの蒸気釜を用いる蒸気滅菌法も広く用いられ,品温が100℃に達してから30分間加熱する。細菌の胞子は100℃では死なないので,一度温度を下げ,発芽した生細胞を再び蒸気で殺すという考えで3日間にわたって蒸気滅菌する(〈間欠滅菌〉という)。細菌の胞子を含む微生物の滅菌には高圧滅菌法が適用される。約2.5気圧の圧力下では温度が約120℃となるので,最も有効な滅菌法である。使用する高圧滅菌器は高圧下での作業であるから,必ず検定ずみのものを用いなければならない。微生物の培養に用いる培地などの滅菌には120℃で15~20分加熱する。金属製品やガラス製のペトリ皿などの滅菌には乾熱滅菌器を用い,150~160℃で30~60分加熱する。2000~2800Å,とくに2650Åの紫外線は滅菌力が強いので,紫外線灯を用いて工場,調理場などの空気を滅菌する。最近ではコバルト60 60Coのγ線を用いる滅菌法が実用化されている。また空気や液体の滅菌にはろ過滅菌法が用いられる。
古くからアルコール,ホルムアルデヒド,石炭酸(フェノール)などが用いられている。2.5~3.5%の過酸化水素はその酸化作用のため消毒に用いられる。過酸化水素は空気,光などにより分解して効力を失うので,冷暗所に保存する。クレゾールセッケン液はクレゾールを42~52%含む液体で,原液は強い刺激性があり,皮膚に直接付着すると疼痛をきたし,ついには壊死(えし)をおこすことがあるので取扱いに注意を要する。原液を1~5%に希釈して皮膚,器具などの消毒に用いる。石炭酸もクレゾールセッケン液のように3~5%の希釈液として用いる。さらし粉は生石灰に塩素を吸収させたもので,5%溶液としてプールの水などの消毒に用いる。次亜塩素酸カルシウムも同様に用いられる。塩化ベンザルコニウムを含む逆性セッケン液は普通10%程度の濃度で市販されている。かなり強い消毒力があり,手指,皮膚,器具の消毒に用いられる。普通のセッケンに混ぜて用いると効力を失う。エチレンオキシドを用いる滅菌は加熱できない器物の滅菌に有効である。
→殺菌剤
執筆者:駒形 和男
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…近代微生物学の創始者の一人となったL.パスツールは,19世紀半ばに,外界からの微生物の侵入を防ぐきわめて巧みな実験によって,微生物の自然発生を最終的に否定したが,その研究を通じて空中をはじめいたるところに目に見えない微生物が遍在する事実と,それに対処する微生物学的手法の基礎が確立された。
[防腐]
材料の中の微生物を完全に滅菌した後で,外部からの微生物の侵入を防ぐように密栓して保存する方法と,微生物の増殖に不適当な条件を設定して外部から微生物が侵入しても腐敗が起こらないようにする方法とに大別される。缶詰,瓶詰は前者の代表例であり,塩漬,砂糖漬などは後者の例である。…
※「滅菌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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