翻訳|cresol
フェノールのベンゼン核についている水素原子をメチル基で置換した化合物であるメチルフェノールの総称。化学式C6H4(CH3)(OH)。o-,m-,p-の3異性体がある。いずれもフェノール臭をもち,融点はそれぞれ31℃,11.9℃,34.7℃,沸点は191℃,202.7℃,201.9℃。いずれも無色または淡い黄色か茶褐色の油状の液体。非常に酸化されやすく,空気や光にふれるとしだいに暗褐色に変化する。かなり弱い一塩基酸で,たとえばp-クレゾールの酸解離指数pKa(25℃)は10.26であり,フェノール自身よりもやや弱い酸である。水酸化アルカリの水溶液には溶けて,アルカリ金属塩となる。濃硫酸中ではスルホニル化,濃硝酸中ではジニトロ化される。アルコール,エーテル,クロロホルムなどにはよく溶けるが,水には約2%しか溶けない。3異性体の殺菌効力は微小な差はあるものの,ほとんど変わらないといってよく,フェノールの約2.5倍の効力がみられる。微生物は菌体タンパク質に変性を受け,生活力を奪われるものと考えられている。栄養型の一般細菌や結核菌には作用するが,ウイルスや芽胞にはあまり効果がない。工業的にはコールタールの分留で3異性体の混合物として得られ,少量のキシレノールとフェノール留分とが混入している。現在ではトルエンの塩素化加水分解法またはトルエンのスルホン化アルカリ融解法による合成が大部分である。実験室では,対応するトルエンスルホン酸C6H4(CH3)(SO3H)のアルカリ融解で得られる。おもな用途は,消毒液,クレゾール・ホルムアルデヒド樹脂,殺虫剤,塗料,木材防腐剤などであるが,これらの目的には3異性体の混合物のまま使用される。クレゾールは水に溶けにくいので,同量のセッケンと混和して可溶性をもたせ,水に溶かしたものがクレゾールセッケン液(リゾールlysolともいう)で,消毒用には1~3%の溶液が用いられる。濃厚な液が皮膚に付着すると知覚の麻痺や炎症を起こす。誤って飲んだ場合,消化器粘膜を腐食して激しい腹痛を起こし,嘔吐,下痢などの消化器症状および頭痛や失神などの神経症状を呈し,死亡にいたることがある。
執筆者:岡崎 廉治+藤本 進
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
殺菌消毒剤。オルト、メタ、パラの3異性体の混合物で、石炭タールから得られるが、現在は石油分解物の蒸留による方法や化学的合成によってつくられる。無色または黄色ないし黄褐色の澄明な液で、フェノールのようなにおいがある。水に溶けにくいのでせっけんと混和し、クレゾールせっけん液として消毒に用いられる。殺菌力はフェノールよりやや強く、毒性はやや弱い。日本薬局方にはクレゾール、クレゾールせっけん液、クレゾール水が収載されている。
[幸保文治]
処方はクレゾール500ミリリットル、植物油300ミリリットル、エタノール(エチルアルコール)50ミリリットル、水酸化カリウム63グラム、常水適量を加え、全量を1リットルとする。あらかじめ植物油とエタノールを加温しておき、水酸化カリウムを常水に溶かした液に加え、加熱してけん化しせっけんをつくり、これにクレゾールを加えて製したものである。黄褐色ないし赤褐色の粘性の液で特異なにおいがあり、水、エタノール、グリセリンとよく混ざる。かつては手指の消毒に1~3%の水溶液がよく用いられたが、逆性せっけんなどの、殺菌力が強くにおいのないものが開発されたため、現在はあまり使用されず、伝染病患者の排泄(はいせつ)物の消毒に5~10%液が、また器具の消毒に3~5%液が用いられるにすぎない。なお、この3%水溶液がクレゾール水である。
[幸保文治]
methylphenol.C7H8O(108.14).C6H4(CH3)OH.o-,m-,p-クレゾールの3種類の異性体がある.工業的にクレゾールといえばこれらの混合物である.石炭タールの酸性油留分中に存在するが,トルエンからスルホン化-アルカリ融解法あるいはクメン法により合成される.o-およびp-クレゾールは常温で結晶または液体,m-クレゾールは液体で,いずれもフェノール臭をもち,空気中ではしだいに着色してくる.酸性を示し,希アルカリに可溶.エタノール,エーテル,クロロホルムなどとまざる.フェノールより殺菌力は強く,消毒剤として用いられる.[CAS 1319-77-3:o-,m-,p-クレゾール混合物]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…当時,手術はイギリスの陸軍病院で65~90%,市民病院で26~60%の高い死亡率を示し,手術は死と同様に考えられていたが,この処置によって死亡率を大幅に低下させることに成功した。石炭酸と同様に石炭タール製品であるクレゾールは,コッホとその共同研究者により1887年に医療に使われた。クレゾールは近年は特有な臭気や排水規制のため使われなくなった殺菌剤の一つである。…
※「クレゾール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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