日本大百科全書(ニッポニカ) 「火星探査機」の意味・わかりやすい解説
火星探査機
かせいたんさき
火星とその周辺環境を探査する宇宙機。
火星は地球の直径の約半分の大きさで重力は地球の約3分の1、地球の外側の軌道を公転する地球型惑星である。火星を回る衛星としてフォボスとデイモス(ダイモス)がよく知られる。火星には希薄な大気があり、平均気温は零下40℃以下で、ごく微量の酸素と水(水蒸気や氷)が存在する。硬い大地と大気があることから、生命の可能性のある太陽系惑星として古くから探査が進められてきた。アメリカ、ソビエト連邦(ソ連)、ヨーロッパ、日本、中国、インドなどが1960年代以降多くの無人探査機を打ち上げてきた。また火星表面で自走する探査機をマーズ・ローバーといい、火星の構成物質や進化の歴史を知るうえで重要な探査手段である。
初めて火星に着陸した探査機は、1971年にソ連が打ち上げたマルス3号であるが、着陸後20秒で信号がとだえた。その後もマルス、フォボスなどの探査機が火星に向かったが、そのほとんどが通信途絶や軌道投入時のトラブルなどで失敗している。本格的な探査に成功したのは、1975年にアメリカが打ち上げたバイキング1号で、火星表面の映像を地球に電送した。1997年にはマーズ・パスファインダーが着陸してローバーが岩石などを採取した。2004年にはスピリットとオポチュニティが着陸に成功し、いずれも6年以上にわたって観測を行った。さらに2008年にフェニックスが、2012年にキュリオシティが着陸し、火星の表面の多くを玄武岩質が占めていることなどがわかった。火星はその重力の大きさに対して大気が非常に希薄であるため、パラシュートでは十分な減速が行えず着陸機にダメージを与えることが多かった。そのためキュリオシティでは、まずパラシュートにより減速を行い、その後、逆噴射による減速を試みるスカイクレーン方式という着陸手段が採用された。
日本は1998年(平成10)に初の火星探査機「のぞみ」(PLANET-B)を打ち上げたが、通信途絶でミッションは達成できなかった。
火星探査機は周回軌道から観測するための機器を多数搭載する。カメラ、分光計(可視光・紫外線・X線・γ(ガンマ)線)、磁気センサー、レーダーなどで、火星表面や大気の組成、構造、形態などの情報を収集する。火星へ着陸する探査機は着陸用装置一式(着陸衝撃吸収装置、高度計、速度計、誘導コンピュータなど)を装備する。火星表面を移動しながら観測するマーズ・ローバーには通信機、電源、位置・方向センサー、カメラ、物質分析器、マニピュレーターなどが備えられている。
[森山 隆 2017年6月20日]
『日本経済新聞社、CSDI、ITC著、CSDI、ITC監修『21世紀惑星探査大辞典――火星』(2000・日本経済新聞出版社)』▽『アルフレッド・S・マキュイーン他著、宮本英昭日本語版監修『火星 未知なる地表――惑星探査機MROが明かす、生命の起源』(2013・青幻舎)』▽『ジャイルズ・スパロウ著、日暮雅通訳『火星――最新画像で見る「赤い惑星」のすべて』(2015・河出書房新社)』