惑星本体と近傍の環境、および惑星の衛星を探査する宇宙機。
太陽系惑星を探査するための宇宙機で、特定の惑星を対象とするものと、フライバイ(近傍通過)を繰り返して複数の惑星を探査するものがある。またボイジャー探査機のように太陽系を離脱して他の恒星系を目ざす宇宙機もある。20世紀に打ち上げられたアメリカの惑星探査機にはマリナー・シリーズ(1962~1973年打上げ)、パイオニア・シリーズ(1958~1973年打上げ)、バイキング探査機(1975年打上げ)およびボイジャー探査機(1977年打上げ)などがある。
マリナー・シリーズは火星および金星の探査を目的として1号から10号まで打ち上げられた。2号で金星の、4号で火星の近傍通過にそれぞれ初めて成功し、いずれも貴重な科学観測データを送ってきた。9号は火星を回る最初の探査機となり多くの写真を撮った。10号は金星の最初の動画観測に成功し、さらに水星の近傍通過による科学観測を3回行った。
パイオニア・シリーズは惑星間空間と外惑星の探査を目的として11号まで打ち上げられ、10号は最初の木星近傍通過に成功、11号は木星と土星の近傍を通過し土星の環(わ)の詳細構造を初めて観測した。
ボイジャー探査機は外惑星の探査を目的に2機打ち上げられ、1号は木星と土星の近傍通過による観測を行い、2号は木星と土星の観測ののちに天王星と海王星に相次ぎ接近して科学観測を行った。
アメリカと宇宙開発を競ったソビエト連邦(ソ連)は、火星の探査を目的としたマルス・シリーズ(1962~1973年打上げ)、金星の探査を目的としたベネラ・シリーズ(1961~1983年打上げ)のほかに、コスモス探査機、ゾンド探査機を打ち上げた。マルス2号、3号は火星を回る軌道船からの探査には成功したが着陸には失敗。6号、7号も近傍通過を行ったが着陸には失敗した。金星探査機ベネラのシリーズは16号まで打ち上げられ、4号で初めて金星大気への突入に成功し観測を行った。その後9号、10号は金星への着陸に成功した。
1989年にアメリカは金星探査機マゼランを打ち上げ、1990年から1994年にかけて金星全表面の詳細な三次元レーダー画像を取得した。また1989年に木星探査機ガリレオを打ち上げ、プローブ(観測装置搭載カプセル)を木星大気に突入させて観測に成功した。また探査機本体により木星およびその衛星ガニメデ、カリスト、ユーロパ(エウロパ)、イオの詳細な画像を取得した。1990年(平成2)に日本は軌道変換実験を目的とした「ひてん」を打ち上げ、月周回軌道への投入に成功した。1994年にアメリカはクレメンタインを打ち上げて、月面の多重スペクトル画像を取得した。1997年にアメリカが打ち上げた土星探査機カッシーニは、2004年に土星を周回する軌道に投入され、搭載されたESA(イーサ)(ヨーロッパ宇宙機関)のタイタン着陸機ホイヘンスが土星の衛星タイタンに着陸した。アメリカは火星探査機マーズ・パスファインダーを打ち上げて1997年に火星着陸に成功し、史上初めてローバー(探査車)による火星表面走行に成功した。1998年(平成10)に日本は初の火星探査機「のぞみ」を打ち上げたが、通信が回復しないままミッションが達成できなかった。
21世紀に入り、2004年8月にアメリカが打ち上げた水星探査機メッセンジャーは、2011年に水星を周回する軌道に投入され、表面などの詳細な観測を行った。2003年にESAは火星探査機マーズ・エクスプレスを打ち上げた。2005年にアメリカが打ち上げた火星偵察軌道周回機(MRO)は、火星表面の詳細な観測を行った。2007年にアメリカが打ち上げた火星探査機フェニックスは、火星の北極に着陸して、地表面物質を熱的・化学的に実験処理することで生物繁殖を促進する氷塊を発見した。2010年(平成22)5月に日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))は、金星探査機「あかつき」を打ち上げた。打上げは成功したものの、スラスターの異常燃焼により金星周回軌道投入に失敗し、金星に近い軌道で太陽を周回していた。2015年に金星周回軌道への再投入が成功し、観測を開始した。カッシーニは2004年から土星の周回観測と衛星タイタンに探査機ホイヘンス・プローブを着陸させて大気観測を行った。アメリカはボイジャーが唯一探査を行わなかった冥王(めいおう)星や、さらにその外側に広がるエッジワース・カイパーベルトに向けて2006年にニュー・ホライズンズを打ち上げ、冥王星には2015年に接近して探査を実施した。
[森山 隆 2017年6月20日]
『『地球と惑星探査』(『図説科学の百科事典7』・2008・朝倉書店)』▽『松井孝典著『探査機でここまでわかった太陽系――惑星探査とその成果』(2011・技術評論社)』▽『アラン・ボス著、竹内薫訳『宇宙は生命でいっぱい?――惑星探査が明らかにする新しい宇宙』(2012・NTT出版)』▽『フィリップ・セゲラ著、川口淳一郎監修、吉田恒雄訳『宇宙探査機――ルナ1号からはやぶさ2まで50年間の探査史』(2013・飛鳥新社)』▽『寺薗淳也著『惑星探査入門――はやぶさ2にいたる道、そしてその先へ』(2014・朝日新聞出版)』▽『佐藤勝彦総監修『さがせ! 宇宙の生命探査大百科』(2016・偕成社)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 20世紀に入ってからも火星の運河論争などポピュラーな話題は続いた。しかし惑星研究史の次の時代を開いたのは,惑星探査機による直接観測とテレビ画面に生々しく浮かび上がった惑星表面像に象徴される詳細なリモートセンシングデータであった。地球ですら内部構造はいまだによくわからないことが多いことを考えると,定性的には惑星の描像はかなり地球並みになってきたのである。…
※「惑星探査機」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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