特殊撮影効果special photographic effects(または特殊視覚効果special visual effects)の略称。映画でふつうの撮影法では得られない映像を作り出す技法で,古くはトリック撮影と呼ばれた。近年SFXと略称するが,これはspecial effects(スペシャル・エフェクツ)を口語体で発音したときスペシャル・エフェックスと聞こえるところから生まれた新造略語で,スティーブン・スピルバーグ監督《インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説》(1984)のクレジットタイトルにはすでにこの名称が使われている。その内容は複雑多様だが,おおまかにいって,被写体側の物理的な作業と,カメラ側の光学的な作業にわかれる(前者を単にスペシャル・エフェクツ,後者をスペシャル・フォトグラフィック・エフェクツと呼ぶ場合もあるが,いずれにしても発達の早い分野なので,用語が安定していない)。多くの場合,それらが複合されて,特撮の画面が完成する。
特撮の歴史は,映画の誕生とともに生まれたともいえる。ファンタジー映画の開祖ジョルジュ・メリエスが,1896年にパリのオペラ座前広場の実景を撮影中,カメラの故障で撮影を数分間中断し,あとでそのフィルムを現像してみると,バスが葬儀車に,道を横切る男が女にパッと変身した。つまり,偶然によって手品と同じ消去=変身の効果を生むストップモーション撮影法を発見したというのは有名な〈伝説〉である。また,E.H.エメットは,98年に起きた米西戦争のサンチャゴ軍港の海戦をミニチュアで撮影し,〈6マイル離れた場所から月明りで撮った実写〉と称して公開したが,だれひとり疑わなかったという。エドウィン・S.ポーター監督の《大列車強盗》(1903)は,リアルな特撮をとり入れた最初の作品としても歴史的である。アメリカ特撮の開祖ノーマン・O.ドーンは,電信局内部のセットを撮影するとき,右端の窓の外側に黒い布を張って撮り,それを巻き戻して,窓部分に一致する小さな方形の穴をあけたカードをレンズの前に装着し,線路の脇にカメラを据えて,走り過ぎる機関車を再撮影した。その巻戻し合成があまりにも自然だったため,アメリカの映画史家までが電信局のシーンをロケによるものだと信じてしまい,ためにドーンは,特撮マンとしては久しく無名の存在だったという。
このように,初期の合成は,すべて巻戻し再撮影という,リテーク(撮り直し)を許されない一発勝負だった。それが解決されたのはリア・プロジェクション(背面映写)のスクリーン・プロセスの開発で(たとえば列車の窓外風景なら,列車のセットの背面から透過式スクリーンになっている窓に風景を映写して,そのセットで人物などとの合成撮影を行う),これもドーンが1913年に製作,演出した《漂流者》の中で試みたが,すりガラスに背面映写した画質が思ったほどよくなかったため,ひとまず放棄した。しかしこの方法は30年代に,トーキー化によってスタジオ内での撮影が絶対条件となったことと,シャッターを同期させる間欠輸動装置などの進歩によって実用化し,さらにクリアーなフロント・プロジェクション(背面からではなく,前面から通常の反射式スクリーンに映写する)にひきつがれて現在に至る。
科学的な光学合成装置,いわゆるオプティカル・プリンターも,プロジェクターの回転が正確になった30年代に徐々に完成したのだが,33年には,開発途上のオプティカル・プリンターや,ミニチュア,リア・プロジェクションなど,当時のあらゆる方法を組み合わせて用いた歴史的な特撮映画《キング・コング》が作られた。現実にはありえないほど巨大な(または矮少な)キャラクターが登場する作品の好例で,ミニチュアのモデルに,ストップモーション撮影で動きを与えるという,モデル・アニメーション特撮(これはオブジェクト・アニメ,ディメンショナル・アニメなどとも呼ばれ,今なお用語が不統一である)の創始者,ウィリス・H.オブライエンの代表作でもある。この方式はやがてオブライエンの弟子のレイ・ハリーハウゼン,孫弟子のジム・ダンフォース,デービッド・アレンらにひきつがれていく。
ほぼ完成したオプティカル・プリンターを用いたトラベリング・マット合成は,39年のアメリカ映画《オズの魔法使》の一部で試験的に用いられ,40年のイギリス映画《バグダッドの盗賊》で全面的に採用。この年に新設されたアカデミー特撮賞を,ロレンス・バトラーが受けた。空飛ぶ木馬,空飛ぶ絨緞や巨人などのシーンがそれで,ふつうブルーの背景の前で,俳優や物体に空飛ぶポーズをさせて撮影(ブルーマット方式)し,別撮りの街や野原の実景に,その型のシルエット・マスクを重ねて未感光の部分を作り,そこへ飛行物体をはめこむ。つまり光学的な〈型抜き〉作業だと思えばいい。
近年の特撮は,《スター・ウォーズ》(1977)でジョン・C.ダイクストラがアカデミー賞(視覚効果賞)を受けた〈ダイクストラフレックス・カメラ〉(コンピューターを導入した世界最初のモーション・コントロール・カメラ。同じ動きを何度でも正確にリピートする)などの技術の開発によって,長足の進歩をとげ,70ミリ・ネガの使用によって,合成画面の精度も著しく向上した。しかし一方,被写体側については,古典的な手法が今なお思いがけぬ効果をあげている。たとえば,スチル・カメラのころから用いられてきたマット・ペインティング(ガラス面に精密な絵を描き,透明のまま残した余白からかなたの実景やセットをとらえる位置にカメラを据え,双方が焦点深度内にくるよう絞りこんで撮影する方法で,カメラの中で書割と実景が合成されるから,わかりやすい)は,《スター・ウォーズ》《ダーククリスタル》(1982)などに活用されている。また,リック・ベーカーがアカデミー賞を得た《狼男アメリカン》(1982)の変身シーンは,フォーム・ラテックス(ポリウレタン)の人工皮膚によって作られたが,皮膚が激しく脈動するショットの,フォーム・ラテックスの下に忍ばせた風船に圧搾空気を送りこむ方法は,1920-30年代のシリーズ喜劇《ちびっこギャングOur Gang Comedy》で,ひとめぼれした男の子のハートがどきどきといったシーンですでに用いられた古典的トリックの応用である。なお,マペット(あやつり人形)とモンスター・スーツ(ぬいぐるみ)も,今も併用されて効果をあげている方法だが,日本の特撮の問題点は,被写体サイドが今なお〈ゴジラ・スーツとミニチュア〉に依存し,カメラサイドの開発が立ち遅れていることにある。
→SF映画
執筆者:森 卓也
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