主として文字に書き記す文章のうえで,話しことばの語彙(ごい)文法をよく反映している文章の体をいい,話しことばにはふつう用いられない語彙文法を主とする文章の体(文語体)に対する。明治初年には,書きことばとして雅文体,漢文書下し体,候文(そうろうぶん)体など,諸種のものがあり,それらは話しことばとは大いにかけ離れたものであったが,その中から普通文という標準文語文体の文章が形を成す一方で,言文一致運動に伴って,従来俗文として卑しめられた話しことば風の書きことばが言文一致体にとりあげられ,さらに普通文の文語体に対する口語体としての地位を占めた。口語体は,とくに小説家によって普及し洗練されたが,1904年(明治37)の国定の《尋常小学読本》では過半の文章が口語体をとり,またしだいに口語詩,口語歌の発生をもみた。新聞は21年(大正10)ころ,公用文は46年(昭和21)に至って,すべてに口語体を採用することになり,現今では,擬古的な詩歌のほか,文語体によるものはまれである。しかし現在の口語文にも,たとえば〈内閣の首長たる総理大臣〉〈教育の力にまつべきもの〉〈思わざるをえない〉などの文語要素の残存はある。口語体は,文末において〈だ〉や〈である〉を用いるものと,〈ます〉〈です〉を用いるものとに大別されるが,文芸家の言文一致には最初からそれぞれの体が試みられた。〈ます〉〈です〉体は特定の相手を意識してのていねいな表現で,多く手紙や婦女子の読物に用いられて敬体といい,〈だ〉体,〈である〉体は特定の相手のない,独白的・一般的表現で常体という。そのうち,〈である〉はふつう文章に書くときにしか用いないので,その体の文章は,新しい文語体ということもできる。
→言文一致 →口語 →文語体
執筆者:林 大
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…ところで書きことばは本来は話しことばにもとづくはずのものであるが,日本では書きことばは独特の発達をして,話しことばをよく反映するものと,はなはだしくそれから離れたものとを生じた。この前者を〈口語〉,後者を〈文語〉ということがあり,それによって書かれた文章をそれぞれ〈口語文〉と〈文語文〉,その文体を〈口語体〉と〈文語体〉という。この場合,口語とは,話しことばをよく反映した書きことばを意味する。…
※「口語体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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