改訂新版 世界大百科事典 「大列車強盗」の意味・わかりやすい解説
大列車強盗 (だいれっしゃごうとう)
The Great Train Robbery
1903年製作のアメリカ映画。発明家のトマス・エジソンが主宰するエジソン・カンパニーの作品で,監督はエドウィン・S.ポーター。〈犯罪〉〈暴力〉〈正邪の対決〉といったすぐれてアメリカ映画的な要素をはらんだストーリーを,初めて映画的な話法で表現することに成功して〈アメリカ映画の最初の古典〉とみなされている。〈最初の物語映画(story film,またはnarrative film)〉,そして〈最初の西部劇〉としても知られる。当時の社会的関心事であった列車強盗を題材に,強盗団が郵便車から大金のはいっている郵便袋を盗んで,逃走するが,追跡隊によって銃撃戦の末,全滅させられるまでが14のシーン(=カット)によって構成されている(長さは586フィート,当時の上映スピードで約9分というのが通説である)。
それまでの単に演芸や自然の景観を写しただけの見世物だった映画に飽きかけていた観客は,何の説明の字幕もなしに,リアルな物語を眼前に展開していくこの映画に熱狂した。《映画がつくったアメリカ》(1975)の著者ロバート・スクラーのことばを借りれば,〈それまでにいったい誰が,疾走する列車上における山賊と列車乗務員との戦いを至近距離から,しかも安全に目撃しただろうか? 罪のない乗客がおかしな振舞をしたからといって冷酷に射殺されるのを,誰が眺めえただろうか?〉〈1903年の観客たちにとって,その映画は新しい世界と出会う驚くべき方法だったのである〉ということになる。当時のアメリカでは,映画は〈ペニー・アーケード〉と呼ばれる娯楽センターの片隅で上映される見世物であったが,《大列車強盗》の人気が興行者に自信を与え,〈ニッケルオデオンnickelodeon(5セント劇場)〉と呼ばれた常設映画館の大量発生をうながすことになった。〈ニッケルオデオン〉の名まえの始まりとなったペンシルベニア州マッキースポートの映画館が,1905年に開館したときのオープニング番組にも,《大列車強盗》は組まれていたといわれ,D.W.グリフィス監督の《国民の創生》(1915)が現れる以前のアメリカ映画の最大のヒット作であった。
執筆者:宇田川 幸洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報