改訂新版 世界大百科事典 「狐の草子」の意味・わかりやすい解説
狐の草子 (きつねのそうし)
御伽草子。室町時代の成立。絵巻1軸。ある女房が老いた僧都を見染め,使いのものに誘いの文を届けさせる。僧都は若い時分から〈心色めきたる人〉であったから,返事をしたため,姿かたちをととのえ待っていると,夜更けて二十日の月が出るころ,八葉の車が迎えにくる。善美を尽くした館に着き,楊貴妃,李夫人も及ばぬ女房と和歌を応酬し,女の歌の巧みさに耐えかね,僧都は打ちふす。日がのぼって目覚めた僧都は女が調えたさまざまの魚を断り,精進の物で食事を済ますが,見慣れぬことばかりで疲れを覚えながらも年月を送る。ある日,錫杖を持った若い僧が3,4人走り入ってくるや,主の女房をはじめ皆狐となって四方に失せてしまう。家の内と見えたのは,金剛性院の大床の下であった。通りかかった近衛殿の侍がわけを尋ね,自分の直衣を着せ,僧都が身にまとっていた紙きれを脱がせて故郷に帰すと,娘が自分の小袖を脱いで着せてやった。7年間の楽しみは,7日間の出来事であった。冒頭に欠損のあるこの絵巻は,上半分に詞を記し,下半分に絵をあてた形式で,〈狐絵〉(《言継卿記》),〈狐草子〉(《考古画譜》)と呼ばれ,原本は土佐光信の絵,現存の絵巻はいずれもこの系統の模本である。
執筆者:徳江 元正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報