現物給与(読み)ゲンブツキュウヨ

デジタル大辞泉 「現物給与」の意味・読み・例文・類語

げんぶつ‐きゅうよ〔‐キフヨ〕【現物給与】

給与一部または全部通貨以外の物品支給すること。

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精選版 日本国語大辞典 「現物給与」の意味・読み・例文・類語

げんぶつ‐きゅうよ‥キフヨ【現物給与】

  1. 〘 名詞 〙 賃金の一部または全部を通貨以外の物品あるいは金券などで支払うこと。労働基準法原則としてこれを禁止している。現品給与。実物給与。実物賃金。現物支払制。

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改訂新版 世界大百科事典 「現物給与」の意味・わかりやすい解説

現物給与 (げんぶつきゅうよ)

通貨によってではなく,企業の製品や食料品,住居などの現物またはそれにかわるもので支払われる賃金。トラック・システムtruck system(実物賃金制度)とも呼ばれ,資本主義発展の初期に広範に存在した。イギリスでは,ときに,雇主は賃金の全額を現物で支払ったり,雇主またはその仲間の経営するトミー・ショップtommy shopsと呼ばれた売店でのみ使用可能な金券で賃金の一部を支払った。同様の金券は日本でも山札や金札と呼ばれ,明治・大正期に鉱山土建業の飯場で広くみられた。このような現物給与はしばしば大きな弊害をともなった。例えば現物給与として支給される生活必需品は往々にして質が悪く,しかも市場価格より高く計算されていた。また金券による購売価格は一般の2~3倍に及ぶことも珍しくなかったが,雇用を放棄しないかぎり,労働者は他の場所に買いに行けなかった。このように現物給与は労働者の賃金使用の自由を束縛するとともに,実質上賃金を切り下げ,また場合によっては労働者の移動の制限策ともなっていた。そこで,こうした賃金支払形態の撤廃が初期労働運動の目標の一つとなり,各国で法律による規制が加えられるに至った。イギリスでは1831年のトラック・アクトがよく知られている。日本では,第2次大戦前の工場法は施行令に簡単な規定を置くにすぎなかったが,敗戦後の現行労働基準法(1947制定)が24条で賃金の通貨払いの原則を定め,現物給与を禁止したのである。しかし同条は,法令もしくは労働協約別段の定めがあるときは通貨以外のもので支払うこともできるとし,現物給与が労働者にとって有利な場合があることも認めている。敗戦直後の異常な物資不足とインフレの下で広がった現物給与のいくつかは,確かにこれにあたるといってよいが,例えば不況期に自社の売残り製品が現物給与として押し付けられる場合など,労働組合がその機能を十分果たしえていない日本の実情を考えると,この規定は,労働基準法の原則を台無しにする恐れなしとしない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「現物給与」の意味・わかりやすい解説

現物給与
げんぶつきゅうよ
wage in kind

トラック・システム truck systemともいう。貨幣以外の物品や物品に相当する証券,金券などで支払われる給与。 19世紀のイギリス鉱山業,第2次世界大戦前の日本の鉱山などでみられ,また第2次世界大戦中に日本を含め世界各国で消費物資不足のため,賃金の一部に対して現物支給が広く行われた。この方法は賃金労働者の自由な消費物資購入を阻害し,実質的賃金切下げになることが多かったこと,労働者を不当に職場に拘束するなどの弊害があり,その廃止は初期労働運動の重要な目標となった。各国政府も早くから規制に力を入れ,日本では 1916年実施の工場法でその原則禁止を定め,第2次世界大戦後は労働基準法 24条1項において,労働協約によって定める場合以外は原則として現物給与を禁止している。現在日本では現物給与はほとんど行われていないが,労働条件の重要な一部である企業などの福利施設の多くは,現物給与の一種であるとする見方もある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「現物給与」の意味・わかりやすい解説

現物給与
げんぶつきゅうよ

賃金を通貨で支給するかわりに、その一部または全部を当該企業の製品、その他の生活必需品、金券などで支払うもの。現品給与、実物給与、現物支払制などともよばれる。とくに、労働者が生産する製品を賃金の一部として支給することをトラック・システムtruck systemという。日本の労働基準法第24条は、賃金の通貨支払い原則を規定しているが、労働協約によって実物の評価額を定めることなどを条件に現物給与も認めている。資本主義初期の原生的労働関係下に、資本家による賃金減額、労働者の足止め策として広範に存在した。日本でも炭鉱業などで多くみられたが、現在は特別な場合を除いてほとんど存在しない。

[横山寿一]

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人材マネジメント用語集 「現物給与」の解説

現物給与

・payment in kind
・賃金の一部を金銭(通貨)以外の、現物で支給することを指す。
・労働基準法によって賃金は、「通貨による支給の原則」が規定されているが、労働協約等の定めにより現物による支給も可能となっている。
・原則的に提供された現物給与を金銭に換算した額で所得税が課されるが、一定の範囲内で非課税となるものもある。
・主な非課税現物給与は、通勤定期乗車券 100,000円/月、永年勤続者の表彰記念品(社会通念上妥当な範囲)、創業記念品(社会通念上妥当な範囲)、クリーエーション費用等の負担 (社会通念上妥当な範囲)等である。

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百科事典マイペディア 「現物給与」の意味・わかりやすい解説

現物給与【げんぶつきゅうよ】

賃金の一部または全部に近いものを現物ないし実物(食料・住居・金券など)で支給すること。賃金は通貨払いが原則であるが,資本主義の初期には実物賃金制度(トラック・システム)が広く用いられた。日本では明治・大正期の鉱業・土建業・林業などにおける金札,山札がこれに当たる。労働基準法は原則として現物給与を禁止している。

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会計用語キーワード辞典 「現物給与」の解説

現物給与

金銭以外の形式で従業員に与えられる給与支給のこと。

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