金札(読み)キンサツ

デジタル大辞泉 「金札」の意味・読み・例文・類語

きん‐さつ【金札】

金製のふだ。また、金色のふだ。
江戸時代諸藩が発行した金貨代用の紙幣
明治初年、政府が発行した金貨代用の紙幣。太政官札だじょうかんさつ民部省札の2種。
閻魔えんまの庁浄玻璃じょうはりの鏡にかけて善人悪人を見分け、極楽に送る善人の名を記したという金製の札。金紙。→鉄札
[補説]曲名別項。→金札

きんさつ【金札】[謡曲]

謡曲。脇能五番目物喜多以外の各流。観阿弥作。桓武天皇の勅使が神社創建のため伏見へ行くと天から金札が降り、天津太玉神あまつふとだまのしんが現れて、悪魔をはらい御代を祝福する舞を舞う。

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精選版 日本国語大辞典 「金札」の意味・読み・例文・類語

きん‐さつ【金札】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 金の札。また、金色の札。
      1. [初出の実例]「あら不思議や、天より金札の降り下りて候。すなはち金色の文字すわれり読み上げ給へ」(出典:謡曲・金札(1384頃))
    2. 帝王の書状を敬っていう語。勅書。〔日葡辞書(1603‐04)〕
    3. 江戸時代、諸藩が発行した金貨代用の紙幣。実際には銀札・銭札・米札が多く、金札の発行は少なかった。
      1. [初出の実例]「金札をもって源五が廓行」(出典:雑俳・十八公(1729))
    4. 明治元年(一八六八)から同二年に発行された太政官金札と民部省金札。
      1. [初出の実例]「是迄金札相場被立置候に付夫々引換等も有之候処」(出典:第四一三‐明治二年(1869)五月二日(法令全書))
    5. 閻魔(えんま)の庁で、浄玻璃の鏡にかけて善人と悪人を見分け、善人ならその名前を記して極楽へ送るという金製の札。金紙(きんし)。⇔鉄札
      1. [初出の実例]「きんさつに御判をあそばし」(出典:御伽草子・梵天国(室町末))
    6. 能楽で用いる小道具の一つ。将棋の駒を大きくした形の薄板に表裏ともに金箔を押したもの。能「金札」の頭にかぶる輪冠(わかんむり)の上の立物(たてもの)として、また、「羅生門」の渡辺綱が、証拠の標札として手にする時に用いる。
      1. [初出の実例]「我先祖渡辺の綱、君の仰を蒙り、印の金札給りて」(出典:咄本・聞上手(1773)綱右衛門)
    7. 金色に塗った立て札。
      1. [初出の実例]「江戸町の門々に〈略〉異様なる名を付て金札に書付、海道に立置たり」(出典:慶長見聞集(1614)七)
    8. のうち、特に江戸上野の元三大師慈眼大師は毎月三〇日夕方の七つ時(午後四時三〇分前後)限りに、三六坊を順次遷座し、一坊に一か月鎮座したが、その前に、「両大師」と書いて立てた標札。大師札。
      1. [初出の実例]「金札も大師につれて山めぐり」(出典:雑俳・柳多留拾遺(1801)巻一〇)
  2. [ 2 ] 謡曲。脇能・五番目物。各流。作者不詳。伏見の大宮を造営せよとの桓武天皇の勅命を受けて伏見を訪れた臣下は、そこの老人から、天から降ってくる金札のいわれを聞く。老人は自分こそ天津太玉神(あまつふとだまのしん)であると名乗って消える。その夜、神が真の姿で現われ、悪魔降伏・国土守護を誓って舞う。

こん‐さつ【金札】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 厳格な規則鉄則
    1. [初出の実例]「高雄持念闍梨 辱枉金札、深慰下情歓喜之誠、不面何言」(出典:伝教大師消息(824‐831頃))
  3. 閻魔(えんま)の庁で、浄玻璃の鏡にかけて善人と悪人を見分け、善人ならばその名前を記して極楽に送るという金製の札。金紙。きんさつ。⇔鉄札
    1. [初出の実例]「かくてゑんま王ぐうには、十五十たいあきらかに、きょくざにうつらせ玉へば、くしゃうじんさゆうに立、こんさつてつさぜんあくのあさきふかきをただし玉ふ」(出典:浄瑠璃・善光寺(1678)四)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「金札」の意味・わかりやすい解説

金札
きんさつ

江戸時代,金貨を引替えの対象として発行された紙幣。藩札としておもに関東,東北地方に流通したもののほか,慶応3 (1867) 年幕府の発行した江戸銀座金札,明治政府が明治1 (68) ~2年に発行した太政官札,民部省札などがある。

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世界大百科事典(旧版)内の金札の言及

【現物給与】より

…イギリスでは,ときに,雇主は賃金の全額を現物で支払ったり,雇主またはその仲間の経営するトミー・ショップtommy shopsとよばれた売店でのみ使用可能な金券で賃金の一部を支払った。同様の金券は日本でも山札や金札とよばれ,明治・大正期に鉱山や土建業の飯場で広くみられた。このような現物給与はしばしば大きな弊害をともなった。…

【貨幣】より

…【作道 洋太郎】
[近代日本の貨幣法制]
 安政の開港により,日本へのメキシコ・ドルの流入と日本からの金貨の流出が激化し,貨幣制度は大混乱に陥った。明治新政府は,この混乱を静め,その経済基盤を確立するために,1868年太政官札(金札)の発行を布告したのを手はじめに,69年,民部省札,71年,大蔵省兌換証券,72年,新紙幣,開拓使兌換証券,81年,改造紙幣等々の紙幣を発行した。硬貨に関しては,当面,江戸時代の旧制によるとされたが,1869年以降,従来の四進法から十進法への変更,銀本位制ないしは金本位制の採用等々が種々検討された結果,71年の新貨条例により,金単本位制が採用されることとなった。…

【太政官札】より

…金札ともいう。明治政府が1868年(明治1)閏4月19日発行を布告した不換紙幣(5月15日から発行)。…

【藩札】より

…1871年(明治4)の調査によると,全国諸藩の約80%にあたる244藩で藩札を発行していた。藩札は幕府貨幣の三貨との関係から,金札,銀札,銭札が見られたが,銀札が最も多い。そのほか米札,糸(かせいと)札,轆轤(ろくろ)札,鯣(するめ)札,昆布札などの特殊なものがあった。…

※「金札」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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