産業用水(読み)さんぎょうようすい

改訂新版 世界大百科事典 「産業用水」の意味・わかりやすい解説

産業用水 (さんぎょうようすい)

工業,農業,商業などの産業に使われる用水。サービス業,官公署,学校も産業に含められているから,家庭用水以外の用水はすべて産業用水ということができる。漁業湖沼や海がなくては成り立たないが,この場合の湖沼や海の水そのものは産業用水とはいわない(ただし,これらの水を引き入れて養殖などに使う場合,これを産業用水と呼ぶべきかどうかは明確にされていない)。

 用水を大別すると淡水海水とになる。日本の淡水資源の賦存量は,年間総降雨量から蒸発量を差し引いた約4500億m3/年と考えることができ,これに対して,現在使われている淡水の用水量は,概略して,年間,上水道140億m3工業用水490億m3(うち10億m3は上水道より供給),農業用水550億m3水力発電用水4000億m3程度となっている。これらを総計すると,上記淡水資源賦存量を上回るが,それは,用水量反復使用や再生利用の水量を含んだものであるからである。例えば,水力発電用水では,同じ川の水が上流から下流まで,いくつもの発電所を通って何度も使われ,あるいは揚水発電の形で反復利用されたりもする。発電用水は水を汚染したり消費するわけではなく,下流で他用途にも使われる。農業用水は実質使用量のもっとも多い用水で,季節的に使用量の差が大きいことが特徴である。温泉排水や鉱山,工場の廃水は不適であるが,自然水であれば質的には問題がない。ただ,冷水温は水稲に悪影響を与え,ダムの放流水の温度が問題になることがある。工業用水は,工場内回収技術が進んだ結果,回収水量の割合が年々増加し,すでに全使用水量の70%を超えている。工業用水に要求される水質は用途によって千差万別であるが,工場内で必要な処理がされるから,工場に供給される水は飲料水と同等あるいはそれより低位の水質であることが多い。その他の産業用水の大部分は上水道で供給されている。

 産業用水としての海水は主として冷却水として用いられ,化学工業製鉄業および火力・原子力発電所で多用されている。現在,日本で使われている海水の量は年間約860億m3にのぼるものと考えられる。四面海に囲まれた日本では,海水は量的に無尽蔵といってよく,おおいに利用されるべきである。しかし,使用に際しては,温排水が海の生態系を乱さないような注意が必要である。
工業用水 →農業水利
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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