工業の生産過程で使われる水。1993年の工業統計によると,日本で使われている1日の工業用水量は,淡水が1億4900万m3,海水が4000万m3に及んでいる(これらの量には水力および火力発電所で使われている水は含まれていない)。しかし,淡水について水源別にみると,回収水,すなわち循環再生利用水が77%を占め,実際の淡水補給量は1日あたり3500万m3にすぎない。回収水の使用割合は年々増大する傾向にあり,そのため,実質の工業用水需要量は1974年をピークに以後減少しつつある。補給水の水源は工業用水道37%,上水道7%で,残り56%が自家水源となっている。しかし,現在の窮屈な水利権の状況や地下水塩水化の現象を考えると,今後新たな自家水源を開発することはむずかしく,しだいに回収水や工業用水道に切り替えられていくものとみられる。
工業用水の用途を大別すると,冷却水,製品処理水,洗浄用水,原料用水,温調用水,ボイラー用水,その他になる。総使用水量としては冷却水が大きな割合を占めているが,冷却水は回収率が高いので,新水補給量としてはそう多くない。実質的な消費水量は製品処理,洗浄用水がもっとも多い。
工業用水に要求される水質は用途や工程によって千差万別である。冷却用水は比較的低位の水質でよい場合が多く,むしろ水温と水量に重点がある。しかし,直接冷却では製品の汚れや腐食,間接冷却では熱交換装置の腐食,スケール,微生物障害など,水質に起因する障害が生じないような配慮をしておく必要がある。また,原子炉冷却水のような特殊用途では純水が使われている。製品処理用水および洗浄用水は原料ないしは半製品と製造工程で接触する水であるので,原料用水に準ずる水質が要求される。紙・パルプ製造用水では濁度や硬度の低い水が,繊維工業や染色工業では鉄・マンガンなどの着色成分のない水が,また,半導体の製造工程で使われる洗浄用水には理論純水に近い超高度純水が必要である。原料用水は水を原料として使用するものであるから,水質の良否が直接製品の良否に影響する。醸造用水や清涼飲料製造水では硬度やアルカリ度が味に微妙な影響を与えるし,食品加工用水では水の臭味成分が問題になることがある。医薬品の製造には純水ないしは超高度純水が使われている。温調用水は冷暖房に用いられる水で,要求水質はほぼ冷却水と同じであると考えてよい。ボイラー用水はスケール,腐食などのボイラー障害を最小にするよう入念な水質管理がなされている。ボイラーの圧力により,軟水,純水ないしは超高度純水が使われている。
工業用水道は工業用水道事業法に基づく工業用水だけを供給する公共水道であり,その建設ならびに管理は国庫補助金,地方債,地方公共団体の一般会計からの出資あるいは繰入れなどにより行われる。工業用水道で供給される水は飲用には供されない。一般に,水質的には都市上水道より低位のものであり,供給を受けた工場側はそのままあるいは必要に応じて水処理を施して使用することになる。日本の工業用水道の中には,都市下水の処理水を給水しているところもある。
執筆者:藤田 賢二
工業用水については,もともとは特別な法的規制も援助措置もなかった。しかし,地下水を工業用水として過剰採取した結果,各地で地盤沈下,水質悪化などの現象が発生したので,昭和30年代に入り,一方で工業用の地下水採取を規制するとともに,代りに工業用水の豊富低廉な供給に努める政策が採用された。前者の目的で制定されたのが工業用水法(1956公布)であり,後者の目的で制定されたのは工業用水道事業法(1958公布)である。
工業用水法は工業用の地下水採取を規制するため,政令で定める指定地域において井戸ごとに知事の許可を受けることを義務づけている。この許可の基準は井戸のストレーナーの位置および揚水機の吐出口の断面積で,ストレーナーの位置が浅ければ浅いほど,また揚水機の吐出口の断面積が大きければ大きいほど,地盤沈下を惹起(じやつき)しやすいという考え方に立っている。しかし,この法律は地盤沈下対策としては徹底しておらず,工業用水を利用する産業界優先の発想に立っている。すなわち,井戸の許可制が置かれるのは政令で指定した地域に限られるが,それには単に,地下水採取により地下水位の異常な低下,塩水汚水の地下水への混入,地盤沈下が見られるだけでは足りず,そのほかに,その地域に工業用水道がすでに敷設され,または1年以内にその敷設の工事が開始される見込みのある場合であることを必要としているのである。
そこで,これとの関連で,工業用水道の建設を促進するために制定されたのが工業用水道事業法である。これは工業用水の供給という公共的なサービス事業を規制するため事業の許可,施設の基準,給水義務などを定める点では,飲料水の供給を規制する水道法と同じであるが,地下水から工業用水道への転換を円滑に進めるため,国家資金の援助があること,施設も人員も上水道より少なくてすむことから,工業用水の料金は,上水道料金よりはるかに安く抑えられているという特色がある。
執筆者:阿部 泰隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
製造工業において用いられる水をいい、工業生産に関連するすべての用途の水が含まれる。日本では工業用水を用いる産業、つまりここでの工業は、製造業、電気供給業、ガス供給業および熱供給業と定義され、これらが使う水のうち、水力発電用、飲用を除くものを工業用水としている。
淡水を主とするが、一部海水で代用されることもある。ほとんどすべての工業にとって、量や質の違いがあっても水は必要不可欠であるが、一般に使用量が多いのは冷却用水で、洗浄用水や製品処理用水がこれに次ぐ。ほかに原料用水、温調用水、ボイラー用水などがある。
業種別には、紙・パルプ、化学工業、鉄鋼業、発電などの高温や洗浄処理を伴う業種で大量に使用される。工業用水のうち、工業用水道、上水道、地表水、伏流水、井戸水などの用水源から工場内に取得される水を補給水という。これに対して、いったん取得された水が工程内を繰り返し循環利用されるものを回収水といい、冷却用水が好例である。
工業用水を大量に使用する用水型工業にとっては、大量で低廉に安定した水の供給が受けられる地域に工場を立地することが重要である。ただし、日本では水を普遍的存在の資源と一般にはみなし、工業用水の存在が企業にとっての重要な立地因子となることは少なかった。
高度成長期の日本では、用水需要が急増し、工業地帯における地下水の過剰揚水による地盤沈下や地下水の枯渇、また工業用水道の給水能力不足が大きな問題になった。そこで公営による公共工業用水道の増設がなされるようになった。現在では、この工業用水道が工業用水のなかで最大の水源比率を占めている。また、日本ではオイル・ショック以降、経営合理化に伴う水使用の合理化が図られ、回収率(工業用水利用に占める回収水の使用割合)が高くなっており、工業用水を大量に使う業種であっても、補給水を大量に使用し続けるものではなくなってきている。
[柾 幸雄・加藤幸治]
『肥田登著『日本の工業用水供給』(1982・多賀出版)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 日本の工業出荷額は,第1次石油危機後の1974年と75年にやや前年を下回ったが,その他の年は年ごとに増加している。ちょうど石油危機のころまでは,工業出荷額の増加とともに,工業用水量(淡水補給量)も増え続けたが,石油危機を境に,工業出荷額は増加しているにもかかわらず淡水補給量は毎年減少し続けている。工場内での水の反復利用が進んだためである。…
… 用水を大別すると淡水と海水とになる。日本の淡水資源の賦存量は,年間総降雨量から蒸発量を差し引いた約4500億m3/年と考えることができ,これに対して,現在使われている淡水の用水量は,概略して,年間,上水道140億m3,工業用水490億m3(うち10億m3は上水道より供給),農業用水550億m3,水力発電用水4000億m3程度となっている。これらを総計すると,上記淡水資源賦存量を上回るが,それは,用水量が反復使用や再生利用の水量を含んだものであるからである。…
…塩水化した海岸地下水が淡水に戻るには長い時間が必要である。 地下水は農業用水,工業用水,また上水源として利用される。地表水と比べると土壌により水が浄化され衛生的にすぐれている。…
※「工業用水」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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