申命記(読み)しんめいき(英語表記)Deuteronomy

翻訳|Deuteronomy

精選版 日本国語大辞典 「申命記」の意味・読み・例文・類語

しんめいき【申命記】

  1. ( 原題[ラテン語] Deuteronomium ) 旧約聖書第五書。モーセ五書の一つ。内容イスラエルのすべての民のために書かれたモーセ説教で、イスラエルに対する神の選びの愛とそれに対するイスラエルの責任主題に、律法遵守が説かれている。預言書

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改訂新版 世界大百科事典 「申命記」の意味・わかりやすい解説

申命記 (しんめいき)
Deuteronomy

旧約聖書の〈モーセ五書〉の一つ。約束の地カナンに入る直前,モアブの地でなされたモーセの最後の説教。表題のもととなったギリシア語訳《Deuteronomion》(〈第2の律法〉の意)は,〈律法の写し〉(17:18)の幸運な誤訳による。第1部導入部(1~11)は,シナイの歴史の回顧と律法と戒めへの従順のすすめで,物語(1~4)と勧告(5~11)の文体の二つからなる。第2部は律法の部分(12~26)と儀式断片(27~28),第3部は最後のすすめ(29~30),さらに全体の結論としてモーセの死の伝承(31~34)が付け加わる。二人称の部分と三人称の部分が重なっているが,その背後には全イスラエルが一人の人間のごとく集まって神の律法を聞き,実行を誓ったシケムにおける年ごとの契約締結の儀式があったらしい(《ヨシュア記》24参照)。王国の成立とともに契約の祭儀はエルサレムのそれにとって代わられ,元来の儀式的枠から出て,イスラエル個人に呼びかける律法の教えとなった。

 ヨシヤ王の18年(前622),神殿で発見されてその宗教改革の源となった文書は(《列王記》上22~23),改革による地方聖所の廃止とエルサレムへの祭儀集中化が《申命記》の要請と一致するので,《申命記》の原形であったとされる。おそらくモーセの遺産を永久に保存しようとした北王国のレビ人たちの間に生まれた《原申命記》は,北王国滅亡前,彼らによって南ユダにもたらされ,マナセの異教と迫害の時期に神殿に隠されたらしい。王国の制度とアッシリアの全体主義的勢力が部族の自由を脅かしたとき,彼らはイスラエルの選びに重要な意味を与えた。本書ではヤハウェは唯一であり,イスラエルはまったき恵みによって選ばれたこと,歴史はヤハウェ一人によって導かれること,それゆえ偶像礼拝を排し,心を尽くし力を尽くして彼を愛し彼に従わなければならないことが主張される。これが〈シェマ・イスラエル(聞け,イスラエル)〉(6:4)である。この神の民の形成のため一部契約法典(《出エジプト記》20~23)をとりあげ,新しいものを付加し,律法の順守の動機と報いとを強調し,新しい状況においてこの理想を掲げる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「申命記」の意味・わかりやすい解説

申命記
しんめいき
Devarim; Deuteronomy

旧約聖書中の一書。マソラ本文では律法書の第5書でヘブル語でデバーリーム (言葉という意味) から「言葉」と呼ばれる。七十人訳旧約聖書 (→セプトゥアギンタ ) ではモーセ五書の第5書で,書名の申命記はギリシア語からつけたもので,語源が示すところによると「第2の律法」というよりは律法の「写し」,あるいは「繰返し」という意味がある。
『申命記』の起源についてはユダの王ヨシヤによる宗教改革 (前 621) に関する『列王紀下』 (22~23章) の物語との関係が早くから論じられていたが,デ・ウュッテらの研究によって,改革の基準とされた『律法の書』は『申命記』であると確認された。したがって,その起源は異論もあるが,ほぼ前8世紀末ないし前7世紀に求められる。『申命記』はモーセの説教という形式をとるが,内容的には大きく3部に分れる。まず1~11章で十戒と唯一の神ヤハウェへの絶対的服従が説かれ,12~26章でモアブでの契約律法が,27~32章では律法を果すべき動機とその遵守に対する応報が,そして最後に 32章ではモーセの歌が記されている。『申命記』の神学は,唯一神ヤハウェのまったき恵みによって選ばれた「神の民」の神学であり,それはシェマ・イスラエルすなわち「イスラエルよ聞け。我らの神,主は唯一人の主なり。汝心を尽し精神を尽し力を尽して汝の神,主を愛すべし」 (6・4~5) という言葉に代表される。『申命記』は王国の制度が部族の自由を脅かし,アッシリアの圧迫が増大するという新しい状況のもとで,一つの神,一つの民族,唯一の祭儀という古いアンフィクティオニー (宗教を中心とする種族連合) の理念を再び力強く掲げたものであった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「申命記」の意味・わかりやすい解説

申命記
しんめいき
Deuteronomium

『旧約聖書』の初めにある「モーセ五書」の第5書。17章18に「この律法の写し」とあるのを、「第二の律法」Deutero-nomiumとギリシア語訳したところからこの書名が生まれた。日本語書名は、漢訳(申はふたたび、命は律法)を踏襲したもの。モーセがカナーンに入る直前に、モアブの平野でイスラエル人に律法を再度説き明かした訣別(けつべつ)説教の形をとっており、モーセの死が終わりに記されている。本書は、紀元前621年のヨシヤ王による改革の理念を示す書と考えられ、エルサレム神殿のみを残して地方の聖所を廃止し、異教的要素を排除した礼拝の純化と集中の方針などが盛り込まれている。「イスラエルよ聞け。あなたは心をつくし、精神をつくし、力をつくしてあなたの神、主を愛さなければならない」(6章4以下)の箇所は、古来ユダヤ教徒が毎日唱える聖句で「シェマー(聞け)」とよばれ、キリストも隣人愛とともにこれをもっとも重要な戒めとして教えている。5章には「十戒」がある。

[清重尚弘]

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