ヨシュア記(読み)ヨシュアき(その他表記)Yehoshua; Book of Joshua

精選版 日本国語大辞典 「ヨシュア記」の意味・読み・例文・類語

ヨシュアき【ヨシュア記】

  1. ( 原題[ラテン語] Josue ) 旧約聖書第六書。モーゼ五書に本書を加えて六書ともいわれる。モーゼの後継者ヨシュア指導者に、イスラエル民族がカナンの地に侵入占領した歴史の記録。土地の分割、契約の思想などが現われている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヨシュア記」の意味・わかりやすい解説

ヨシュア記
ヨシュアき
Yehoshua; Book of Joshua

旧約聖書モーセ五書の次に位置する書であり,申命記,士師記I,II,サムエル記 I,II,列王紀とともに,ユダヤ人の歴史と律法の伝統に属する。申命記的歴史家の著作であり,主として申命記資料に基づいて編集されたもので,歴史的著作であるが考古学的諸事実と一致しない部分も少くない。モーセ五書と合せてモーセ六書 (→ヘクサテューク ) とも呼ぶ。バビロン捕囚時代の紀元前 550年頃に執筆にとりかかったとされる。主要な登場人物の名前からそう名づけられたヨシュア記は,ユダヤ教正典の最初預言者であるヨシュアの時代の記録で,約束の地カナンをイスラエル人が征服する物語が書かれてある。この書には古代の伝統が多く記されているが,それらは聖書史家たちの個人的見解の影響を受けている。
ヨシュア記は,以下の3つの部分に分割される。カナンの征服 (1~12章) ,イスラエル民族間での土地の分配 (13~22章) ,ヨシュアの告別の辞と死 (23~24章) 。カナンを所有することは,幾度となく繰り返されたイスラエル民族の父アブラハムに対する約束の成就であったので,ヨシュア記は通常,聖書の最初にある六つの書からなる一つの文学的編成の完結と見られてきた。この見解をもつ神学者たちは,ヨシュア記の中に先の書の中で発見されるものと同じ資料の記録を見出そうと試みている。しかし,現在ではヨシュア記を続く書で継続される歴史の始まりと見る傾向が強まっている。
ヨシュア記の著者は,イスラエル人がかつては手にした土地を失い,バビロニアに捕囚として連れて行かれた時代に生きていた。彼が語る歴史は,祖国を再び取り戻そうという望みに彩られているのはそのためである。約束の地の最初の征服は,大変熱を込めて語られ,征服にはヤハウェの助けがあったことを聖書史家は繰り返し強調している。さまざまな部族への土地の分配は,イスラエルにまったく所属しなかった領土やあるいはかなりあとになってイスラエルが手にした所までを含んでいる。このことがまた,イスラエル国家のかつての栄光がいつかは回復されるという聖書史家たちの希望を反映しているのである。ヨシュアの告別の辞 (24章) は,カナンの地においてヤハウェがイスラエルを守るための条件を説いている。肝心な個所は以下の点である。「もしあなたがたが主を捨てて,外国の神々に仕えるなら,あなたがたをしあわせにしてのちも,主はもう一度あなたがたにわざわいを下し,あなたがたを滅ぼし尽くす」 (24・20) 。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヨシュア記」の意味・わかりやすい解説

ヨシュア記
よしゅあき
The book of Joshua

『旧約聖書』のモーセ五書に続く第六書。エジプトでの奴隷状態から脱出したイスラエルの民が、指導者モーセの死後、その後継者ヨシュアに率いられてヨルダン川を渡り、神が与えると約束した地カナーンに侵入、町々を攻略して占領し、土地を12部族間で配分した経緯を物語る。構成は、ヨルダン渡りとカナーン征服(1~12章)、部族間の土地配分(13~21章)、ヨシュアの遺訓(22~24章)。この書によれば、占領は徹底的破壊によるもので、占領地では人も家畜も皆殺しにする「聖戦」の形をとっている。しかも、たとえばエリコの戦いでは、軍隊と祭司が町の周囲を行進し、7日目にラッパにあわせて大声をあげるとたちまち城壁が崩れ落ちた(6章)とあるように、奇跡的大勝利が描かれている。しかし、このような記述は客観的史実というよりは、後代の宗教的立場からの教訓的意図により、歴史を理想化し図式化したものであろうと考えられている。

[清重尚弘]

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改訂新版 世界大百科事典 「ヨシュア記」の意味・わかりやすい解説

ヨシュア記 (ヨシュアき)
Book of Joshua

旧約聖書の6番目の書物で,〈前の預言者〉の最初の書物。〈モーセ五書〉で父祖たちに約束されていた土地の取得を扱うので,五書と合わせて六書と呼ぶこともある。ヨシュア指導下の迅速な土地占領(1~12)と各部族への土地分配(13~21),シケムでの契約締結などの付属記事(22~24)から成るが,イスラエル12部族全体の一体的行動,および神の主導下での聖戦の観点から記述されており,そのまま歴史資料としては使えない。
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