旧約聖書の3区分(律法,預言書,諸書)の一つ。旧約聖書のヘブライ原典によれば,〈前の預言者〉と〈後の預言者〉の区分があり,前者には《ヨシュア記》《士師記》《サムエル記》上下,《列王紀》上下が属している。これらは古代語訳以来,ふつう歴史書とみなされているが,モーセ以来の民族の指導者に預言者的精神の継承が後代に認められており,また《列王紀》には前9世紀に北王国イスラエルで活躍した預言者エリヤとエリシャの言行記録などの預言者物語が含まれている。〈後の預言者〉には,預言者の名を冠したいわゆる預言書が属する。まず三大預言書《イザヤ書》《エレミヤ書》《エゼキエル書》が置かれ,その後に《ホセア書》《ヨエル書》《アモス書》《オバデヤ書》《ヨナ書》《ミカ書》《ナホム書》《ハバクク書》《ゼパニヤ書》《ハガイ書》《ゼカリヤ書》《マラキ書》が〈12小預言書〉として一括されているが,この中には《ヨナ書》のように文学書として成立したのに,後日預言者を主人公とすると理解されたものもある。文学書の追加は《七十人訳聖書》でも行われた。《哀歌》の作者としてエレミヤが想定されて,《エレミヤ書》の後に置かれ,《ダニエル書》は黙示の未来予告的な性格のゆえに,《エゼキエル書》の後に置かれた。この配列を近代語訳聖書も引き継いでいる。預言書は基本的には預言者本人が記したものではなく,それぞれ複雑な形成史をもち,ことに《イザヤ書》と《エレミヤ書》には後代大幅に加筆された。審判や救済を神の権威で語る預言書の本体部分はだいたい詩文で書かれている。
→預言者
執筆者:並木 浩一
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預言者の文学をさす。『旧約聖書』の3区分、すなわち「律法」(トーラー)、「預言書」(ネビイーム)、「諸書」(ケスビーム)の第二の部分にあたる。一般に預言活動それ自体は、古代オリエント世界に広くみられる現象であり、多くの場合、楽器を媒介として恍惚(こうこつ)状態に入り、神の意志を人々に告げるシャーマン的、祭司的職能として機能した。『旧約聖書』の場合、預言者は、神のことばを神にかわって民に語る神の代弁者(ナービー)として登場する。彼らの職務は、ヤーウェとイスラエルの民との間に真実の人格関係を打ち立てることにあったが、そのために自ら身を殺してヤーウェの契約に生きることはもちろん、民に対しても契約に従って生きるようひたすら叫び続けた。彼らの預言がイスラエルに対する厳しい批判となり、痛烈な審判となって現れたのはそのためである。しかし一方、悔い改めてヤーウェに立ち返る者への「とりなし」も預言者の職務に属する。ヤーウェは審(さば)く神であると同時に愛の神であることを伝えることを忘れていない。『旧約聖書』の預言者は、紀元前8世紀を境に、前預言者(「ヨシュア記」「士師(しし)記」「サムエル記」「列王紀」)と後預言者(「イザヤ書」「エレミヤ書」「エゼキエル書」「十二小預言書」)に分かれるが、通常、預言書という場合には後預言者の書をさしている。
[山形孝夫]
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…原典の構成を邦訳聖書での書名で示せば次のようである。 (1)〈律法〉は《創世記》《出エジプト記》《レビ記》《民数記》《申命記》の5巻,(2)〈預言者〉はさらに〈前の預言者〉と〈後の預言者〉に区分されて,前者は《ヨシュア記》《士師記》《サムエル記》《列王紀》の4巻,後者は《イザヤ書》《エレミヤ書》《エゼキエル書》〈小預言者〉の4巻で,〈小預言者〉には《ホセア書》《ヨエル書》《アモス書》《オバデヤ書》《ヨナ書》《ミカ書》《ナホム書》《ハバクク書》《ゼパニヤ書》《ハガイ書》《ゼカリヤ書》《マラキ書》の12の小預言書が一括して収められている。(3)〈諸書〉には〈真理(エメス)〉の表題の下に,《詩篇》《箴言》《ヨブ記》が,また〈巻物(メギロース)〉の表題の下に,《雅歌》《ルツ記》《哀歌》《伝道の書》《エステル記》が置かれ,さらに表題なしに《ダニエル書》《エズラ・ネヘミヤ記》《歴代志》が置かれる。…
※「預言書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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