江戸時代,都市を構成する各町の自治的制規。町法度,町内式目,定法書などと呼ばれた。江戸時代の都市の住民としての商工業者のうち,社会的に正規の町人として存在していたのは,家屋敷を所持し,その家屋敷の広狭に応じて町奉行所や惣町の諸費用およびその町限りの町費を負担する家持に限られ,住民の大部分を占めた地借(じがり)・店借(たながり)は町人身分として認められていなかった。そして家持が他町・他国住の不在地主の場合は,家持の代理として家作を管理する家守(やもり)(大家)が準町人として,家持とともに町共同体の構成員となり,町政の自治的運営が行われた。町内の家持中の合意の形で取り決められる町法は,町の成立事情,歴史的背景からくる慣習法の違いや,町の経済的機能のあり方などによってその内容を異にする。公儀法度の順守,夜警・防火の徹底や町寄合,町家・地形普請,奉公人の雇用など日常生活における共同体規制の範囲は多方面にわたり,公役・町役の分担,勘定方式などについても精細な取決めをもったが,それらのうち最も大きな比重を占めていたのは家屋敷の購入・譲渡,家督相続などに際しての町儀・町礼の規定であった。
南北朝以来の戦乱の体験から,戦国末期に自衛的な自治組織をもった京都における冷泉町の1585年(天正13)1月,鶏鉾町の1596年(慶長1)7月の町法度などは,その祖型をなすものといえる。前者の場合は家屋敷購入の際,町内に対して購入価格の10分の1(のちの歩一=帳切銀)と振舞金,振舞酒のことを規定しており,後者の場合には家屋敷購入のほか,烏帽子着(元服),法体(隠居),婿入りなどの際の町内への祝儀振舞いの規定が成文化されている。このような町儀の規定は,新規に町共同体に加入することについて町内の認知を得たことを公示する広めの意味をもつと同時に,相互連帯的な地縁共同体を破壊するおそれのある外来者を警戒・排除する意図をも内在し,町によって職種の違いはあるが,座頭,猿楽,米屋,油屋,鍛冶屋,材木屋,紺屋など,火災の危険性や騒音を発する業種などの居住規制を盛り込んだ取決めも珍しくなかった。
江戸時代に入ってから町法の中心となった町儀の内容は,家屋敷の購入・譲渡,養子,婚礼,元服,家守の新任・交替など,町共同体の構成に変更をもたらす諸事項について,その当人が名主およびその家族・手代,町代・書役,組合,家持,番人,髪結などに対して家屋敷価格・軒役数などに応じ,規定の歩一,顔見せ銀,祝儀銀,振舞料を出すことであった。当時の町人にとって,それらに要する諸経費がかなりの負担であったことは,1706年(宝永3)1月江戸において,家屋敷の売買に当たり,名主の指図で多額の礼金を出させたうえ,芝居や船遊山などの饗応をさせたり,寺社への寄進を強要することを戒告する町触が発せられていることからもうかがえる。
執筆者:鶴岡 実枝子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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