日本近世において,主人不在の家屋敷を預かり,その管理・維持に携わる管理人のこと。家主(やぬし)/(いえぬし),屋代(やしろ),留守居(るすい),大家(おおや)などとも呼ばれた。日本の近世社会は,家屋敷の所持者である家持を本来の正規の構成員として成立していたが,なんらかの事由で家屋敷の主人が長期にわたって不在となる場合,不在中の主人に委嘱され,家屋敷の管理・維持にあたるのが,家守の基本的性格である。このような主人不在の家屋敷は,おもに都市域,なかでも江戸,大坂,京都や諸国の城下町において顕著に見られた。それは,大名や武士で武家屋敷のほかに町方で家屋敷を所持するものが少なくなく,その管理人をおく必要が生じたり,都市の商人層が自己の居宅や店舗のほかに,蓄財などのために他の町や他国の都市に家屋敷を所持し,その管理を家守にゆだねざるをえなかったりしたためである。
家守は,本来的には,主人との私的契約の下にあったが,17世紀末以降,都市支配に不可欠なものとして,その存在が公認されたり,主人不在の家屋敷への家守設置が義務づけられたりしていった。それは以下のような事情による。(1)主人不在の家屋敷の多くが都市民衆層に地借(じがり),店借(たながり)として賃貸され,その結果,家守はこれらの零細な地借,店借から地代,店賃(たなちん)を取り立て,併せて,支配の末端として地借・店借層の統制にあたる役割を担うに至ったこと。このような意味で,家守は不在の主人の代替者=家主として,家屋敷の居住者=店子(たなこ)を支配する擬制的な家長としての位置にいた。(2)都市行政の基礎単位である町の事務が複雑かつ高度化し,町の運営に従事する専門家として,家守の役割が重要になったこと。このため江戸や大坂などでは,家持の存在する家屋敷にも,広く家守がおかれるに至った。こうして家守としての地位は,家持の下位にありながら,それに準ずる一種の特権をもたらすものとなり,営業上の信用の源泉などに転化したり,株として売買されたりした。
執筆者:吉田 伸之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
家主(やぬし)・大屋(家)・屋代とも。近世,おもに都市社会で,家持(いえもち)不在の家屋敷を預かり,管理を請け負う者。家守給を得,家持に代わって町での公的役務を勤め,擬制的親子関係にもとづいて地借(じがり)・店借(たながり)を統制し,地代・店賃を取り立てた。中期以降,三都などで大商人資本による家屋敷集積が進むと,増加した家持不在の家屋敷に家守をおくことが義務づけられる。とくに江戸では家守によって町政が運営されることが一般化し,家守を専業とする者も現れ,その地位が株として売買されることもあった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…したがってこのような裏店が密集した地区の人口密度はかなり高かった。江戸の場合,地主が屋敷地内に住む(家持または居付地主と呼ばれた)ことは少なく,多くは家守(やもり)(大家,家主ともいう)が屋敷地内に住居を構え,地代・店賃徴収を代行し,また裏店住人の人別改め(戸籍調べ)や町触(法令)通達などを行い,棒手振(ぼてふり)などの小商人,大工・左官などの職人,そして日雇いなどと呼ばれた下層単純労働者など,裏店住人の事実上の支配者となっていた。長屋【玉井 哲雄】。…
…江戸時代の都市の住民としての商工業者のうち,社会的に正規の町人として存在していたのは,家屋敷を所持し,その家屋敷の広狭に応じて町奉行所や惣町の諸費用およびその町限りの町費を負担する家持に限られ,住民の大部分を占めた地借(じがり)・店借(たながり)は町人身分として認められていなかった。そして家持が他町・他国住の不在地主の場合は,家持の代理として家作を管理する家守(やもり)(大家)が準町人として,家持とともに町共同体の構成員となり,町政の自治的運営が行われた。町内の家持中の合意の形で取り決められる町法は,町の成立事情,歴史的背景からくる慣習法の違いや,町の経済的機能のあり方などによってその内容を異にする。…
…また一つの都市のなかでもちがいがある。江戸の中心部の町は数少ない地主が広大な町屋敷地を占有し,そこに家守(やもり)という管理人を置いて店借を支配しているという状況がみられ,一方,周辺の場末町ではわずかな土地しかもたない地主が多く,みずから家守を兼ねて店借を支配していた。店借は周辺の場末町に多く,60~70%に達するところがあった。…
※「家守」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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