個人や法人などが経営する柔道,剣道,空手などの武道の練習場ないし施設。道場に入門し,月々月謝を納めて指導を受け,練習することができる。日本の町道場の歴史は,江戸時代,流派武芸が盛んになり,師範の家で練習場を持つようになったころからの伝統がある。とくに町道場が栄えたのは幕末で,新流の台頭,外国船の日本への接近,思想的対立などを背景にして,剣術が盛んとなり,武士階級のみならず町人や農民なども武芸の訓練をするようになった。全国各地に町道場が栄え,武芸教育の関心が高まり,庶民教育に大きな役割を果たした。とくに江戸では,北辰一刀流千葉周作の神田お玉ヶ池〈玄武館〉,神道無念流斎藤弥九郎の九段下〈練兵館〉,鏡新明智流桃井(もものい)春蔵の南八丁堀大富町蜊(あさり)河岸〈士学館〉を〈江戸三大道場〉,さらに心形刀流伊庭軍兵衛の下谷御徒町の道場を加えて〈江戸四大道場〉と呼び,その名も高く隆盛をきわめた。渡辺崋山,藤田東湖,天野八郎,桂小五郎,坂本竜馬,近藤勇,土方歳三など,幕末から明治維新にかけて活躍した人々が数多く町道場に入門して学んでいる。町道場による庶民教育は,社会教育,社会体育の立場からも注目すべきものであり,日本の社会教育史のなかで重要な存在の一つである。1960年代後半以降,各種武道の町道場は幼少年を中心に再び盛んとなっている。
執筆者:中林 信二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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