異音(読み)いおん(英語表記)allophone

翻訳|allophone

精選版 日本国語大辞典 「異音」の意味・読み・例文・類語

い‐おん【異音】

〘名〙
① 言葉の音が違うこと。異なった語音。
随筆・秉燭譚(1729)三「論語の大車小車を、大きょ小しゃとよみ来れり。〈略〉しかればしゃときょとは古今の異音にて」
② (allophone訳語) 音声学・音韻論で、ある音素の変異形のうち位置条件により変異するものをいう。たとえば、は行の「は」「ひ」「ふ」の子音で、音声学的に区別される[h][ç][Φ]は、音韻論的には同一の音素 /h/ の異音と認められるなど。
言語学で、同一の音連鎖環境には決して現われることがないように分布している、ある音素の二つ以上の実現例のすべて。広い立場では、社会的・個人的な自由変異体をも含めて、すべて同一音素の異音であるとする。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「異音」の意味・読み・例文・類語

い‐おん【異音】

allophone構造言語学の音韻論で、同一音素の変異形のうち、位置ないし条件によって変異するもの。例えば、英語keep[kiːp]とcool[kuːl]の二つの[k]は調音点を少し異にする同一音素[k]の異音。
機械機器などから出る、通常とは異なる音。「パソコンから異音がする」「異音を確認しての緊急停車」

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「異音」の意味・わかりやすい解説

異音
いおん
allophone

音声学的に異なるいくつかの音が同一の音素に該当するとき,それらの異なる音をその音素の異音であるという。変異音ともいわれる。[kaba](河馬)と[ᶄiba](牙)において,二つの子音[k]と[ᶄ]は主として口蓋化の有無の点で互いに異なる音であるが,これは同じ音がそれぞれの環境に応じてとった姿と説明され,同一の音素/k/の現れと解釈される。このとき[k]と[ᶄ]はいずれも/k/の異音であるという。このような場合,違った音声記号が用意されている音だけを取り上げがちであるが,[ka][ku][ke][ko]の各[k]もすべて違うこと,子音にかぎらず母音もすべて,異なる環境にある異音はすべて異なることを忘れてはならない。英語の例をあげると,cup[kʌp](茶わん)と cap[ᶄæp](縁なし帽子)において,同一の音素/k/が音的環境によって[k]と[ᶄ]という二つの異なる音(異音)として実現される。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の異音の言及

【音韻論】より

…日本語の/u/はこれに非円唇の音響的特徴をなす非変音性が加わり具体的な母音[ɯ]となる。このように音素が音声として実現したものを異音という。
[アメリカ系音素論]
 アメリカではアメリカ・インディアンの言語を調査するにあたり,異質の未開言語を表記するための客観的方法を確立する必要に迫られ,そこで音素の研究が推進された。…

【音素】より

…これら三つの音[ɸ][ç][h]はいずれも無声摩擦という性質を共有し,しかも5母音[a,i,ɯ,e,o]との結びつきが相補う分布をなしている。このように類似したいくつかの音が同じ音声環境に立たないとき,これらの音声は同一音素の異音allophoneと見なされる。すなわち[ɸ][ç][h]は音素/h/の位置異音である。…

【日本語】より

…すなわち子音[h][ç][ɸ]は,相補う形で五つの母音と結合しているのである。この場合,前記の〈発音レベル〉あるいは音声学的レベルでは明らかに存在する,子音[h][ç][ɸ]の音声的相違は意識されず,単一の音素/h/(/ /でくくることにより音素であることを示す)が三つの異なる形〈異音〉で実現したものと受けとめられる。このように相補分布をなす類似した異音は,一つの音素により代表されるのである。…

※「異音」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android