音素(読み)おんそ(英語表記)phoneme

  • 音素 phoneme

翻訳|phoneme

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

時間の流れにそって切った,音韻論の最小単位。音声学における最小単位である具体的単音に該当する。学者により,音素の見方,定義,その帰納方法を異にするが,服部四郎によれば,単音の分布を調べ,同じ音韻的環境に立っていに対立をなす2つ以上の単音はそれぞれ異なる音素に該当し,補い合う分布を示す2つ以上の単音の場合は,当該の単音が実は同一の音がそれぞれの環境に同化してとった形であると音声学的に明しうる場合にのみ同一の音素に該当するとみなし,そうでないときはそれぞれ別の音素に該当するとみなす。それに音韻全体を見渡して作業することにより,いかなる言語においても,離散的単位である音素が互いに他と関連し合い,全体として整然とした体系 (音素体系,音韻体系) をなしており,構造の面でも均整的になっていること,違う音素となっているからこそ,その言語において単語の音形を区別するのであって,ひいては意味の区別に役立つという機能をもつことが多いことなどが明らかになった。音素およびその連続は斜線に入れて/t/,/'atama/のように表記する。英語では,pillの音声記号は [phil] であるが音素記号は/pil/となり,この4文字単語は3音素から成る。「音韻」は「音素」と同義にも用いられるが,アクセントや声調,音節の構造なども含めた広い意味にも用いられる。同一の音素に該当する2つ以上の単音は異音と呼ばれる。

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デジタル大辞泉の解説

phoneme》ある言語の実際の調音と音韻体系全体を考慮して設定される、その言語の音韻論上の最小単位。ふつう/a/,/k/のように、//に入れて示す。

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百科事典マイペディアの解説

フォネームphonemeの訳語音韻論において分析される最小の音韻的単位。ある言語の中で,意味の違いをもたらす音。音節の中心をなす母音音素,その副音となる子音音素,両者の間に立つ半母音音素などに分類され,ふつう/ /の符号に入れて示す。たとえば〈ヒ〉〈フ〉の語頭の子音は,音声学的には区別され,外国人には別の音に聞こえるとしても,日本語の音素としてはともに/ h /である。音素は弁別的特徴や機能によって各言語に特有の体系(音韻体系)をなしていると考えられる。
→関連項目音声学単音発話モーラ

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世界大百科事典 第2版の解説

語の意味を区別する音声の最小単位。人間が言語の伝達において発する音声は多種多様であるが,ひとつの言語で聞き分けられる音声の型すなわち音素の数はほぼ一定している。この音素の規定は1930年代から40年代にかけて言語学の主要課題であった。音素については,これを具体的音声から抽出された音声概念とするポーランドの言語学者ボードゥアン・ド・クルトネの素朴な見解から,一方では心理的実在としてある型をなすものとするE.サピアの説および同質の音声のグループと解するD.ジョーンズの見方に進み,ついに音素は虚構であるというアメリカの言語学者トウォデルW.F.Twaddell(1906‐ )の極論にいたった。

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大辞林 第三版の解説

ある言語で、語と語の意味を区別する機能をもつ音声の最小単位。例えば、「たき(滝)」と「かき(柿)」の語頭の/t/と/k/など。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

言語音声は多様で、言語により個人により異なっているが、意識して区別できる音の単位は一定で、その数は少ない。語の意味を区別できる音声の最小単位を音素という。
 タス「足す」とヒク「引く」の意味を区別しているのは、「タ」と「ヒ」の音声部分である。タス[tas]とダス[das]の意味を区別しているのは、[t]と[d]の音声部分であるが、これ以上小さな連続した音声部分に分解できないから、 /t/ と /d/ は音素である。音素は斜線で囲んで、これを表す。/t/ と /d/ はともに歯茎閉鎖音であって、/t/ は無声、/d/ は有声の音声特徴をもつ。そこでタスとダスの語を究極において区別しているのは、無声と有声という特徴であることになり、これらを弁別的特徴という。カス[kas]とタス[tas]の対立から音素 /k/ と /t/ が取り出される。ともに無声閉鎖音であって、弁別的特徴は /k/ の軟口蓋(こうがい)と /t/ の歯茎という、調音する場所の違いによっている。
 サス[sas]とタス[tas]を比べれば、音素 /s/ が求められる。ともに無声歯茎音であって、弁別的特徴は /s/ が摩擦音、/t/ が閉鎖音という調音方法の相違に基づく。そこで、音素 /t/ は「無声・歯茎・閉鎖」という弁別的特徴から成り立つから、音素は弁別的特徴の束であるともいえる。また、英語のbelow[bilu]「下に」とbillow[blou]「大波」では、強さアクセントの位置により意味が変わる。また日本語のシ「箸」とハ「橋」では、高さアクセントの位置により意味が違ってくる。このようにアクセントも語の意味を区別する限り音素とみなされる。[小泉 保]
『柴田武編『言語の構造』(『講座言語 第1巻』1980・大修館書店)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 (phoneme Phonem phonème の訳語) ある言語の音声を音韻論的に考察して得た単位。普通 /a/ /k/ のように / / に入れて示す。音声学的には異なる発音でも、同じ音声的環境に現われず、互に単語を区別する機能を持たず、調音が類似するものは、同一の音素と認められる。たとえば、日本語の「ん」は、音声学的には [m] [n] [ŋ] などと区別されるが、音韻論的には同一の音素 /n/ と認められるなど。また、ある言語では異なった二つの音素とされているものが、他の言語では一つの音素とされることがある。→音韻論音素論

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世界大百科事典内の音素の言及

【音韻論】より

…音韻は言語音声から意識された要素として抽出された最小の単位で,フォネームphonemeの訳語として音素と同じ意味に用いられることが多い。音素は音声の最小単位たる単音に対応する分節音素と強弱や高低アクセントのように単音に対応しない超分節音素に分けられるが,このうち分節音素に限り音韻と呼ぶこともある。…

【二重分節】より

…言語学の用語。フランスの言語学者A.マルティネの言語理論の根幹をなす認識。人間の言語は多くの観察によってこの二重分節をそなえていることが知られ,また人間の言語に課せられた基本的な要請からいっても,そこには二重分節構造がぜひ必要であると考えられる。 人間の言語に課せられた基本的な要請としては,まず〈多様性〉の問題がある。人間の言語は次々と生じる新たな表現の必要を満たさなくてはならない。そこから無限の多様性の要請が出てくる。…

【音韻論】より

…音韻は言語音声から意識された要素として抽出された最小の単位で,フォネームphonemeの訳語として音素と同じ意味に用いられることが多い。音素は音声の最小単位たる単音に対応する分節音素と強弱や高低アクセントのように単音に対応しない超分節音素に分けられるが,このうち分節音素に限り音韻と呼ぶこともある。…

【言語】より


[音韻]
 次に,言語の音の面に注目すると,単語(あるいは,形態素)は,意味を無視するならば,さらに小さい単位から成り立っている。音の面での最小単位を〈音素〉と呼ぶ。各言語はそれぞれある数(通常,十数個から数十個)の音素を保有し,それらを順に並べて単語などの音形を構成している(こういう状態も,〈分節〉と呼ばれる)。…

【言語学】より


[音韻論]
 音韻論的研究は,その言語がどのような音をどのように用いてその音的側面を構成しているかを研究する。どの言語も,ある数(通常,十数個から数十個)の〈音素〉と呼ばれる音的最小単位を順番に並べて単語などの音形をつくっていることがわかっているので,音韻論的研究の第一歩は,その言語にどのような音素が存在するのかということである。この研究は,一見容易に思われるかも知れないが,実際はかなり困難な仕事である。…

【二重分節】より

… また数千から数万の意味の切片を,一つ一つ,未分化の声のかたまりで区別していくことは,人間の発声能力の点からいっても認知能力の点からいっても不可能であり,ここにも分析的な手法を人間は用いる。つまり意味の切片は,それを表す形の面で,人間に発声可能で認知可能の音の小切片(〈音素phonème〉)に分節される。この分節が〈第二次分節〉といわれるものである。…

【マルティネ】より

…使用者が十分使いこんで使用が容易になっている要素を別とすれば,変化はことばの中の不経済なものを取り去り,結果として使用者にとって労力の節約になるような形で生じるのである。また,ことばの機能性という点からみると,音素構造こそ,人間のことばが常に経済的にそして正確に機能することを保証する鍵である。つまり人間は音素構造を縦横に駆使することにより,わずかな数の音単位を用いて一定数(かなりの数)の記号素を安価につくることができる。…

※「音素」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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