皮膚にみられる赤,青,褐色などの斑で,皮下出血や湿疹が治ったあとの褐色の色素沈着など一時的なものをさすこともあるが,ふつうには先天的な皮膚の奇形である母斑nevusをさし,ほくろもこの一種である。母斑の多くは自然に消えることはない。また,すべてが生下時から認められるわけでもなく,ある年齢から目だってくるものも多い。レックリングハウゼン病やプリングル病などのように種々の母斑が組み合わさってみられたり,内臓病変をともなうものは母斑症phacomatosisと呼ばれ,優性の遺伝性疾患であるが,ふつうのあざは遺伝することはない。
母斑は,皮膚を構成する表皮細胞,色素細胞,血管,脂腺細胞などの要素が局所的にたまたま増加したもので,血管性母斑,色素細胞系母斑,表皮母斑,脂腺母斑などがある。
血管腫とも呼ばれる。俗に〈赤あざ〉と呼ばれる単純性血管腫hemangioma simplex/portwine stainは,扁平で盛上がりのない鮮紅色ないし淡紅色の斑で,境界ははっきりとしており,色は濃いものからうすいものまでさまざまである。真皮上層の毛細血管が拡張して増加しているもので,圧すると紅色が消えるが,圧を去ると元の色にもどる。生まれたときから気づかれ,身体の成長の割合にしたがって大きくなるが,範囲が拡大することはない。自然に消えることもない。しかしながら新生児の上眼瞼や後頭部にしばしばみられる淡紅色斑は多くは1歳以前に消失する。イチゴ状血管腫angiomatous nevus/strawberry markは生まれたときには認められないが,生後1ヵ月以内から徐々に鮮紅色ないし暗赤色のやわらかな腫瘤として盛り上がってくる。イチゴを半分に切って置いたような外観で,鮮やかな赤色を呈する。大型のものや,こすれる部位に生じたものでは,表面が潰瘍化して出血することもある。生後半年くらいまで大きくなり,以後は自然に縮小して色も淡くなり,おそくとも学齢期までには消失するので,放射線の照射や切除術などの治療を行わないことが大切である。
青色ないし黒色調を呈する。蒙古斑mongolian spotは新生児,乳児の腰部から仙骨部にみられる灰青色斑で,日本人の場合90%以上に肉眼的に認められる。生下時からみられ,その後ある程度増加し,徐々にうすくなり5~6歳までにほとんど消失する。顔面,四肢にみられるものは異所性蒙古斑と呼ばれ,仙骨部のものに比べて成長しても消えにくく,とくに色の濃いものは成人になっても消えないこともある。太田母斑nevus of Otaは日本人に比較的多いあざで,眼上顎褐青色母斑とも呼ばれる。額,あご,眼瞼部の青みを帯びた色素斑のなかに褐色調の小斑が散在性にみられるもので,しばしば眼球結膜,硬口蓋,鼓膜などの色素斑をも伴う。生後間もなく気づくことが多いが,20歳を過ぎて目だってくるものもある。ほくろも色素細胞系の母斑の一種で,母斑細胞母斑と呼ばれる。一般に乳児にはほくろは認められず,10歳前後から徐々に増えてくるものであるが,ある程度以上の大きなものや,毛の密生する獣皮様母斑tierfell nevusと呼ばれるものは生下時から存在する。扁平な褐色斑は扁平母斑nevus spilusと呼ばれ,生後数ヵ月以内に気づくことが多いが,肩,胸などに10歳を過ぎて現れてくるものもある。
表皮細胞の肥厚によるもので,線状の配列をとるものが多く,表面はざらざらして硬く触れ,色は褐色調を示すものから黒褐色のものなどがある。ふつう自覚症状はないが,つよいかゆみを訴えるものもある。
頭部に好発し,小児の場合にはわずかに黄色みを帯びた脱毛斑である。思春期ころから表面があざ状に隆起してくる。
一般にあざの治療は,小さなものは切除して縫い縮め,色が濃く目だつところにあるものは切除して植皮術を行う。雪状炭酸,液体窒素などによる凍結療法や,皮膚剝削(はくさく)術で皮膚を削り取ってしまう方法もある。レーザー療法は単純性血管腫に有効である。しかし,これらの治療によってかえって不自然な感じを残すこともあるので,あまり目だたぬ場合には無理な治療は行わぬほうがよい。
執筆者:新村 真人
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